03/06/17
■ 液体培地に発育したM. aviumが小川培地で発育してこない
【質問】
 抗酸菌培養についてお尋ねします。
先月, 喀痰の抗酸菌培養とPCR検査の依頼がありました。PCRでM. avium 陽性, 10日ほどして液体培地も陽性となりました (液体培地と同じ日に検体を接種した小川培地は培地が黄変してしまっています)。その後, 薬剤感受性検査の依頼があり, コロニーを得るために液体培地の一部を小川培地に接種しましたが, 1ヶ月たっても一向にはえてくる気配がありません。液体培地で塗抹を作ったときに, 抗酸菌の他に桿菌がみられたので, 液体培地の一部をふたたびNALC-NaOH処理をして培養もしてみたのですが, どうもうまくいきません (3週間ほどたちます)。なんとか再分離できたらと思い, 考え付く限りのことを試してみたのですが, この方法ではいけなかったのでしょうか??? 他になにか方法があれば教えていただけないでしょうか??? ちなみに前処理はスプタザイムを添加後, NALC-NaOH処理をし, PCR, 培養に用いています。培養は液体培地 (目視判定) と小川培地を併用しています。どうぞよろしくお願い致します。 

【回答】
 大変難しい質問です。私自身, これまで経験がありませんでした。私が経験したのは, 小川培地に発育して来ないM. avium株は長期治療された患者より分離された菌株です。ただ, 液体培地を使用して発育が陽性とわかりましたが, それまでは見逃していたのかもしれません。発育の悪い菌株でも, 液体培地から寒天培地 (7H10) に継代培養したものを, 小川培地に接種すると発育してきましたので, 寒天培地で培養することも必要だと思われます。

 それと, ひとつ情報があります。M. aviumの亜種についてです。International Journal of Systematic Bacteriology (IJSB: 現在はIJSEMと名称が変わっております) のVol. 40 (3) 254〜260 (1990年) に, M. avium, M. paratuberculosis (ヨーネ菌) および“wood pigeon mycobacteria”(モリバトから分離された抗酸菌)がM. aviumの亜種 (subspecies) であるとする論文が掲載されています。その論文に, “wood pigeon mycobacteria”の性状が記載されているのですが, 卵培地に発育せず, ピルビン酸による発育支持力増強も見られない (7H10培地) が, 寒天培地 (7H11培地) のpHを5.5にすることによって発育支持力の増強が見られると記載されています。液体培地での発育は確認していませんが, 7H10培地に発育することから, おそらく発育するであろうと予測されます。なお, アンプリコア・マイコマイコバクテリウムのプレートに固相されているM. aviumのプローブ配列についてインターネット上 (DDBJ) でその相同性を検索したところ, M. aviumの3亜種, すべてがM. aviumのプローブ配列と同じ配列であることも確認しております。

このようなことから, 質問にあります, 卵培地に発育せず, アンプリコアでM. aviumに陽性となる菌株については, “wood pigeon mycobacteria”(上記の論文ではM. avium subsp. silvaticumとなっております) の可能性もあると考えられます。

(国立都城病院・斉藤 宏)

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