■ 易感染宿主とは??? それと「個室隔離」以外の対策を教えて下さい | |
【質問】
看護師の卵です。 (1) 易感染性宿主とは具体的にどのような患者のことなのでしょうか。 (2) また, 隔離についてはCDCでは原則的に個室隔離といっていますが, 日本では個室の数が少なく難しいと考えます。また本などでは, 各施設で異なるとか書いてあるのですが, 個室隔離以外で院内感染を防ぐにはどのような方法があるのでしょう。 【回答】
病原微生物, 感染経路, 感染宿主の3要素が存在して初めて感染症が成立します。このうち, 感染宿主には3段階の防御機構があります。皮膚・粘膜における物理的なバリアの第一段階, 侵入した病原微生物に対する非特異的な防御機構である液性因子 (補体・リゾチーム・ラクトフェリン等) と細胞性因子 (マクロファージ・好中球・NK細胞等) の第二段階, 最後に侵入微生物に対する特異的な防御機構 (B細胞の体液性免疫とT細胞による細胞性免疫) であります。ご質問の易感染性宿主とは, これらの防御機構が何らかの破綻をきたした患者といえます。 創傷・熱傷・外科的処置等, 静脈・動脈カテーテルあるいは腹腔ドレナージ等の挿入時は皮膚の連続性が消失し, 第一段階の破綻と考えられます。また, 粘膜, 特に腸管内に存在する細菌叢が抗菌薬投与によるクロストリジウム腸炎のように常在菌叢からの選択的な耐性菌の増加, あるいは, 新たな耐性菌の侵入付着, 尿道カテーテル留置患者での尿流出障害に伴う尿路感染症, 気道粘膜での上皮線毛運動障害による慢性気道感染症もこの段階の破綻といえるでしょう。 補体欠損症をはじめとする非特異的液性因子の欠損, 好中球数の異常や機能障害では, 化膿菌感染の重症化につながり, 真菌感染症においても影響を受けます。具体的には, 急性白血病, Hodgikin病などの造血器腫瘍, 再生不良性貧血等の血液疾患, 膠原病で好中球数の減少が認められ, 栄養障害, 肝硬変, 糖尿病等で機能異常症が報告され, 易感染性宿主の基礎疾患としても重要です。これらが第二段階での破綻といえるでしょう。 多発性骨髄腫に伴う免疫グロブリンの低下, 慢性リンパ性白血病, 原発性マクログロブリン血症, 非Hodgikinリンパ腫での免疫グロブリン異常, サイクロホスファミドでのB細胞障害による抗体産生抑制などが体液性免疫不全です。細胞性免疫不全では, HIV感染症に代表されるようにウイルス感染症があげられます。さらに副腎皮質ステロイド, アザチオプリン, サイクロホスファミド, シクロスポリンなどの免疫抑制剤投与によっても細胞性・体液性免疫に影響を与えます。これらが第三段階の破綻です。 (2) 隔離についてはCDCでは原則的に個室隔離といっていますが, 日本では個室の数が少なく難しいと考えます。また, 本などでは各施設で異なるとか書いてあるのですが, 個室隔離以外で院内感染を防ぐにはどのような方法があるのでしょう 易感染症宿主に対する日和見感染症の予防は, 宿主の防御機構を正常化させることと, 宿主に感染させないことが基本になります。そして, どの段階における破綻が原因かによって, 易感染性宿主の感染対策・管理は異なると考えられます。まず, 易感染性宿主の免疫機能を検査によって把握する必要があります。補体価と, 好中球・Bリンパ球・Tリンパ球数と機能検査, 免疫グロブリン値等になります。これらの値によって, 日和見感染症を引き起こす微生物種が異なり, 対応が異なるからです。 ご質問の個室隔離ですが, 易感染症宿主の多くは患者自身の細菌叢が原因となる日和見感染症のため, 未然に防ぐことは難しいと思われます。しかし, 抗癌化学療法や放射線療法および造血幹細胞移植後などで長期間免疫能が低下している患者に対しては有効な手段です。個室隔離以外の有効な手段は, 基本となる手洗いの遵守と, 第1次防御系である皮膚の破綻部, 粘膜部からの微生物の侵入を防ぐために適切な消毒と, 感染が認められた際の適正な抗生物質の投与になるものと考えられます。 (昭和大学・中村 良子)
|
|