03/01/14
■結核菌PCRを非定型抗酸菌が邪魔をする???
【質問】
 私は都内の病院に勤務している検査技師です。結核菌PCRを検査センターに委託しています。

 最初の検体は痰がうまく取れなく“ガフキー2号”でした。結核菌PCRは再々検をして陰性でした。次に“良い痰”がでたので確認の為にもう1度同じ検査をしましたが, 塗抹検査はガフキー6号とでました。ここまでは私も納得しました。結核菌PCRが約束の時間に出来なかったので催促をしましたら, “阻害物質”があるので再検に入るといわれました。やはりむずかしい検査だと思いました。でも依頼した医師は2回も提出したにもかかわらずに結果が出せないとはとお怒りになりました。遅れている原因を直接医師に説明する様にしましたところ, 非定型抗酸菌がPCR検査を邪魔していて結果が出せなかった様です。PCR検査は結核菌か非定型抗酸菌かを見極める検査なのに, この様に判定がむずかしいのでしょうか???

【回答】
 まず医師に“PCR検査が絶対でない”ということを説明することが必要だと思います。胸部陰影および臨床症状より総合判断し, 補助的診断としてPCRを位置付けることが必要です。

 また, 検査センターの回答にも疑問があります。
1. ガフキー2号〜6号の検体で, 結核菌が存在すれば, 結核菌PCRは十分すぎるほど増幅されるので“陽性”になるはずです。

2. 阻害物質があり, 「再検」とありますが, その原因で一番問題になる物質は血液成分 (特に血痰) であり, 十分に溶血させて検査材料に用いないといけません。

3. 阻害物質の混入を監視する為に内部コントロールを実施され, 測定しているか否か, 検査センターに確認する必要があります。

4. “非結核性抗酸菌が結核菌PCRの邪魔をした”と言われていますが, M. avium, M. intracellulareのPCRの結果はどうでしたか??? 結核菌PCRで非結核性抗酸菌 (M. avium, M. intracellulare) が増幅されるとは考えられませんが。それ以外の非結核性抗酸菌は100%考えられません。1例ではありますが, M. tuberculosis, M. avium, M. intracellulareの混合感染を経験しています。塗抹検査 (2+), 結核菌PCR (陽性), M. avium PCR (陽性), M. intracellulare PCR (陽性) となり, 培養3週目に非結核性抗酸菌2菌種 (M. avium, M. intracellulare) を検出し, 培養8週目では結核菌は検出できませんでしたが, 培養10週目に結核菌コロニー3個を検出しました。

5. 最後に抗酸菌検査をされる場合, いつも頭に入れておいてほしいことがあります。患者の既往歴が重要になります。患者に結核症の病歴がある場合は, 抗酸菌の菌交代現象が認められることがあります。経験事例では, 10年前に結核に感染し, 5年後に非結核性抗酸菌 (M. intracellulare) 症に罹患し, 7年後に結核菌と非結核性抗酸菌の混合感染を引き起こしました。このような症例は, 長期療養患者や服薬を途中で中断された患者, 高齢者に多く見られます。非結核性抗酸菌症でも起ります。ですから, 病歴のある患者, 塗抹陽性・培養陰性の検体は培養10週〜12週まで観察されることをお勧め致しますし, ふ卵器に余裕があれば15週ぐらいまで観察するのが望ましいでしょう。

(国立都城病院・斉藤 宏)

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