05/05/18
■ 畜産領域での抗酸菌染色
【質問】
 食肉衛生検査所に勤める獣医師です。豚における抗酸菌 (Mycobacterium avium subsp. avium) についての染色法の検討を行いました。というのも,チール・ネルゼンでの染色ではなかなか検出できません。次の点を教えてください。

(1) ホールベルグ室橋法について
(2) 原田法について

 以上の染色方法 (原理,染色感度および特異性など) を詳しく書いてある文献資料などが見当たらず,困っています。御多忙のなか,大変申し訳ないのですが教えてください。よろしくお願いいたします。

【回答】
 抗酸菌の細胞壁は脂質に富んでおり, アニリン色素の水溶液では染色されにくいということで抗酸染色というのが考案されたのですが, その原理はアニリン色素 (フクシンがよく用いられる) を媒染剤 (通常はフェノール) を介して, 長時間染色もしくは加熱することにより (脂質やミコール酸の豊富な) 細胞壁に捕捉させ, 次に, 強酸アルコールやアルカリもしくは加熱処理によってそこから強制的に脱色させた場合, 本属の菌はこれに強く抵抗する性質を利用したものです。つまり“脱色作用に対する抵抗性”こそが抗酸性の本態なのですが, そのメカニズムについて完全に明らかにされたわけではありません。ただ, どういった状態で菌の抗酸性が低下するかという状況証拠的報告はいくつかあります。たとえば, (1) 人工培地上に発育した集落を長期間放置した場合や (2) グリセリン欠乏培地で飢餓状態に近いといった不良環境下に長期間放置された場合, あるいは幼若期の菌は弱い抗酸性しか示しませんし, 場合によっては非抗酸性を示す場合もあります。さらに宿主体内においては (3) 乾酪壊死 (古くなったチーズ様の) 病巣中で静菌状態である, (4) 陳旧性の肉芽腫病巣中でなくても菌が増殖できない状態にある (むしろ防御免疫などにより減衰期にある) などが指摘されています。また菌種による細胞壁の構成成分の違いも影響します。一般にM. aviumの抗酸性の程度は人型結核菌M. tuberculosisのそれよりも弱いことが分かっています。

「ホールベルグ室橋法」についてですが, この染色法はチール・ネルゼン法のように後染色 (メチレンブルー) 液を使わず, ビクトリアブルーとビスマルクブラウンの混合液で加温染色後, 硝酸アルコールで脱色するもので, 抗酸菌を青色に, 背景を黄褐色に染め分ける方法です。(財) 結核予防会の発行する「抗酸菌の検査」(阿部千代治著) など, いくつかのマニュアル本に染色液の作成法および染色法が記載されています。

「原田法」については一般的に広く用いられておらず, 私も実際に行ったことがなく, 評価できませんので, ここでは文献を紹介するにとどめておきます。詳しくは[Stain Technology 48: 269〜273, 1973], [Stain Technology 51: 255〜260, 1976]を参照してください。

 検出感度については諸説ありますが, どのような染色法も分離培養法に比べて優れているとはいえません。私の経験からいっても, 豚の抗酸菌症では, 病巣部のマクロファージ内で (菌が増殖し続けている状況でない限り) 感度が良いといわれる蛍光法を用いても菌を見つけられないことがよくあります。

(宮崎大学・後藤 義孝)


[戻る]