05/07/28
Enterobacter sakazakii の牛飼料によるミルク汚染
【質問】
 ▲▼産業の○◇と申します。いつもこのページで勉強させていただいております。現在WHOなどで問題視しているEnterobacter sakazakiiについて質問させて頂きます。

 この菌についての詳細はまだ分からないことが多いようですが, 感染経路について興味があります。粉ミルクによる乳幼児での集団感染が問題になっておりますが, どういった経路で粉ミルクに混入してくるのでしょうか。調べてみたところ, 虫から牛, さらに牛からミルクといった経路や, 未加熱処理物質による汚染などが考えられるみたいですが, “餌から牛へ, その牛からミルクへ”といった感染経路は考えられますでしょうか。当社では飼料も扱っておりますので, 今後Enterobacter sakazakiiが日本でも問題となった時, 飼料の汚染も問題になってくる可能性が考えられます。そこで, Enterobacter sakazakiiについて造詣の深い先生に“餌からの感染”があるかどうかについて教えて頂きたいです。お忙しいところ申し訳ありませんが, よろしくお願いします。

【回答】
 “餌から牛へ, その牛からミルクへ”といった感染経路をまったく否定するわけではないですが, その確率はかなり低いと考えられます。乳牛を飼育し, 牛乳を生産している現場へ行かれればわかると思いますが, 質問者の考える経路よりも, 牛がE. sakazakii汚染飼料を食べ, 排泄したものから乳房へ汚染し, ミルカ_で搾乳するときに消毒が不十分で, 細菌でミルクが汚染される経路のほうが考えやすいですが, このケ_スも実は非常に確率は低いと考えられます。牛乳は最低63℃で30分間殺菌されます。乳製品の規格は“大腸菌群陰性”ですから, 当然ながら粉ミルクに使用する乳も“大腸菌群陰性”です。しかし, Muytjens et al.[文献 1]が35カ国 (日本も含む), 141種類の赤ちゃん用粉ミルクを調査した結果, 52.2%が腸内細菌に汚染していて, その内E. agglomeransが一番多く, 次いでE. cloacae, E. sakazakiiは三番目だったと報告しています。また, 粉ミルクを生産している工場からもE. sakazakiiが分離されています[文献 2]。またE. sakazakiiによっておこる新生児髄膜炎は病院にいる間に感染するとも考えられています。今後, E. sakazakiiが国内で問題になる可能性もありますので, 各学会の発表などを注意深く見守る必要があると考えます。

[参考文献]
(1) Muytjens H.L. et al. J.Clin.Microbiol. 26: 743〜746, 1988.
(2) Kandhai M.C. et. al. Lancet 363 (9402): 39〜40, 2004.

(日水製薬・小高 秀正)


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