10/06/11, 24
■ 生乳 (加糖練乳) の規格について
【質問】

 ●●の■■と申します。「質問箱」という有効な情報の場を提供いただき, ありがとうございます。回答者の皆様にも深くお礼を申し上げます。さて標記の件, 以下のとおり質問させていただきます。お手数をおかけいたしますがよろしくお願い申し上げます。

 乳等省令には生乳の要件 (規格) が定められています。生乳を使用して牛乳等や乳製品を製造する場合, この要件を備えたものを使用しなければならないとあります。ただし例外があり,「加糖練乳を除く」となっています。この部分を解釈すれば, 加糖練乳であれば要件を備えていない生乳も使用可能と読み取れます。微生物的には「直接個体鏡検法で細菌数1 mlあたり400万以下」という要件があるわけですが,「加糖練乳ならばこの菌数を超える生乳でも使用可能」と理解してもいいのでしょうか。極端な話, 腐敗したものも使用可能ということになってしまいます。

「加糖練乳を除く」の記載は, 古い書籍をみると昭和25年頃の乳等省令にも記載があるようです。しかし, その理由について記載されたものは (自分の調べた範囲では) 見つけることができませんでした。ご回答のほど, よろしくお願い申し上げます。

【回答】
 質問者のご指摘は理解できます。加糖練乳は英語でcondensed milkやsweetened condensed milkにあたります。昔は, 長い航海をする時, 牛を積んでミルクを補充していた経緯があります。しかし, 牛が船酔いなどで乳の出が悪くなったりして, 乳が主食の乳幼児が飲むことが出来なくなり死んだという歴史があります。また, 乳を保存して飲用した時に, 病気になることも多かったようです。このような経緯から, アメリカでは保存するために乳を濃縮して缶詰 (殺菌工程あり) にした歴史があり, 米国の南北戦争時に大変役立ち, 戦争終了後も兵士が各家庭に持ち帰って広まったようです。厚生労働省食品安全部基準審査課へ電話して聞いたところ,「加糖練乳を除く」の記載の履歴を調べるには, 過去の文書を調べる必要があり, 大変な作業になるということです。乳製品試験法・注解 (日本薬学会編) によれば, 加糖練乳は生乳または脱脂乳に砂糖をそれぞれ16〜17%, 加糖脱脂練乳の場合は13〜14%加えて溶かし, 加熱殺菌した後, 低温減圧でそれぞれ原容量の1/2.7または1/3.3に濃縮したものをいうと定義されています。加糖練乳の製造工程は, 原料乳受け入れ→検査→ろ過→計量→清浄化→冷却→貯乳 (混合試料採取)→組成標準化→加糖→荒煮→ろ過→濃縮→濃度検査→シーティング→冷却→空缶→殺菌→計量充填→小蓋巻締→品質検査→包装→出荷という順になっています (乳業辞典より)。現代では生乳や牛乳の低温流通も発達しているため, 乳等省令に「加糖練乳を除く」と記載されていても, 可能な限り生乳の規格に合致したものを使えば, より安全な加糖練乳を作れると考えます。質問者は「極端な話, 腐敗したものも使用可能」と解釈できるとしていますが, 腐敗したものを使用すれば食品衛生法第6条の違反となります。日本国内の加糖練乳について調べますと, 牛乳営業取締規則が明治33年4月7日付内務省令第15号として発令されていて, その中に記載されています。第二条 (牛乳の条件) には現代まで使われている規格として, 牛乳の比重について記載されています。第三条 (練乳) として,「練乳は水分を除くほか全乳の諸成分の三倍以上を含有するものとする。練乳中に混和する蔗糖量は乳糖を合算して55パーセント以下とする」と記載されています。このことから, 加糖練乳は現在使われている乳等の成分規格ならびに製造, 調理および保存の方法の基準が制定される以前から製造販売されていたため, 加糖練乳だけは除くとなっているのではないでしょうか。

(日水製薬・小高 秀正)

【質問者からのお礼】
 回答をいただき, ありがとうございました。厚生労働省にも確認いただいたそうで, 厚くお礼申し上げます。理由については, 厚生労働省の方曰く「調べないとわからない」ということで, まずは承知いたしました (この対応は非常に残念です)。ご説明いただいた牛乳営業取締規則あたりにヒントがあるように自分も感じます。あきらめずに調査を続けていきたいと思います。このたびはありがとうございました。「腐敗」の表現については, ご指摘の通り第6条を失念しておりました。ご指摘, ありがとうございました。


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