■「硫酸還元菌」とは・・・ | |||||||||||
【質問】
いつも拝見させて頂いております。 私は「工業用殺菌剤」の研究・開発を担当しております。 製紙工場の回収水に“硫酸還元菌”がいるかどうかを市販の硫酸還元菌培地 (イージーカルトS)に植えて培養し, 判定しています (培地が黒変すれば陽性)。しかし培養系内は曝気されており, 嫌気状態ではないのですが, 必ず「陽性」になります。 同じ試験水をSIM培地, 硫酸還元菌用の培地 (培地組成を添付いたしました) などに植えて培養しても黒色沈殿が見られ, 硫化水素の生成が認められました (嫌気培養しなくても)。硫酸還元菌の種類としてはDesulufovibrio,Desulufotomaculumといった菌名が示されておりますが, SIM培地, TSI培地に植えて培地を黒変させる菌 (Salmonellaなど), もっと単純に, 硫化水素を生成する菌なども「硫酸還元菌」ということはできないのでしょうか??? また,「硫酸塩を還元する菌」は「硫酸還元菌」とは違うのでしょうか??? 初歩的な質問で申し訳ありません。 よろしくお願いいたします。 〔培地組成〕 硫酸還元菌用培地
佐藤培地(硫酸還元菌用)
SIM培地
【回答】
先ず, 「硫酸還元菌」と「硫化水素を産生する菌」とは異なる概念を持ちます。腸内細菌科などによる硫化水素産生は, 硫黄を含むアミノ酸 (シスチン, システインなど) からの脱アミノ反応によるものです。
一方, 硫酸還元菌はアミノ酸以外の含硫黄化合物から還元により硫化水素を産生します。
従って, 硫酸還元菌と腸内細菌科の菌は共に硫化水素を産生する能力を持ちますが, 個々にもつ酵素の違いにより硫化水素産生経路も異なるため, 分解する対象物が異なります。 硫酸還元菌は偏性嫌気性菌であり, 酸素にさらされると生育が停止, さらに激しく暴露されると死滅します。硫酸還元菌の培養には, 還元剤による培地からの酸素の除去が必要であり, 嫌気条件下での培養が必要となります。しかし, 嫌気条件下ではないにも拘わらず, 硫酸還元菌用の培地で陽性を示し, SIM培地やTSI培地で硫化水素の産生が確認されることは, 腸内細菌科の菌による可能性が考えられます。SIM培地およびTSI培地は腸内細菌科の確認用の培地であり, 通常の培地に比べ含硫黄アミノ酸が多く含まれます。そのため, これらの培地が黒変することは, 腸内細菌科の菌が存在する可能性を示しているものと考えられます。 2.「硫酸塩を還元する菌」は「硫酸還元菌」とは違うのでしょうか???
(テクノスルガ・ラボ 立里 臨)
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