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病理学I 武田はるな元助教(現所属・金沢大学・がん進展制御研究所)の論文「Activation of Erk in ileal epithelial cells engaged in ischemic-injury repair」が、Scientific Repots誌に掲載されました。

 虚血によって損傷した小腸潰瘍は通常は修復されるが、修復が不完全だと穿孔など重篤な症状をもたらす。上皮細胞がどのような分子機構に依って潰瘍を被覆し、修復するかについては不明な点が多い。本研究では、リン酸化酵素ERKの活性を検出するFRETバイオセンサーを発現するマウスの小腸に虚血を引き起こし、その修復過程における酵素の活性変化を2光子励起顕微鏡を用いて、マウスを生かしたまま観察することで、修復の機構の理解を試みた。
 潰瘍を覆う被覆上皮細胞は、単層のシート状構造をしており、ERKの活性が高かった。また、被覆上皮細胞は分裂は伴わず、集団で移動していると考えられた。ERKの高い活性はEGF受容体の阻害薬で低下することから、EGF受容体がERKの上流に位置することが示唆された。EGF受容体のリガンドはYAPの核内移行によって転写が促進されるというこれまでの報告から、YAPの局在をみると被覆上皮細胞ではYAPが核内に移行していた。以上のYAP核内移行、ERKの活性化(リン酸化抗体による検出)、細胞は分裂しない、という3つの現象はヒト小腸潰瘍の病理検体でも確かめることが出来たことから、ヒトの小腸潰瘍の修復に上記の信号伝達経路が重要であることが示唆された。
 以上の研究は、平成24年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「脂質ワールドの臨床応用を目指す研究拠点形成」と、金沢医科大学奨励研究(S2014-12, S2015-7, S2016-1)の支援を受けて行われた。

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