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【論文発表】腎臓内科学 宮竹 敦彦助教らの「Circulating CTRP9 correlates with the prevention of aortic calcification in renal allograft recipients」がPLos One誌に掲載受理されました。

【背景】
腎移植患者において心血管疾患は主要な死亡原因の一つである。慢性的な動脈硬化や血管石灰化は心血管疾患のリスク因子であり,それらの進行および発生の予測マーカーとして,脂肪細胞から分泌されるアディポネクチン(ADPN)測定の有用性が示されてきた。加えて近年,性差や腎機能による変動がより少ないADPNのパラログであるC1q/TNF-α related protein-9(CTRP9)についての研究が進んでいるが,これまで腎移植患者におけるCTRP9濃度と血管石灰化の関連について検討した報告はなく,移植腎組織におけるCTRP9の発現および局在に関しても明らかにされていない。
【目的と方法】
本研究の目的は,腎移植患者におけるCTRP9の動脈硬化ならびに心血管合併症に対する 影響について調査を行い,CTRP9が心血管合併症の予知マーカーとして有用であるかどうか検討することである。金沢医科大学病院で腎移植後,2008年の観察開始時に血清クレアチニン値が3mg/dL以下で2016年まで生着した腎移植患者50例(生体腎43例,献腎移植7例:男性33例,女性7例)を対象とした。腎移植患者におけるCTRP9とADPNの関連について調査し,対象の血清CTRP9濃度,血清ADPN濃度およびその分画(高、中および低分子量ADPN)を調査し,観察開始時点および経時的な変化量を比較し,それぞれの相関について検討した。また凍結移植腎組織においてCTRP9とADPNの2種の受容体(AdipoR1およびR2)を単クローンおよび多クローン抗体を用いた間接蛍光免疫抗体法にて染色し,それぞれの発現と共局在の有無について確認した。
【結果】
1) 2008年の観察開始時の血清CTRP9濃度は,同時点での各分画のADPN濃度とは有意な相関を示さなかったが,2016年までの平均変化量においては,血清CTRP9濃度変化量は血清高分子量ADPN濃度の変化量と正の相関を示した(rS=0.315, p=0.026)。血清CTRP9濃度の変化量に影響を与えた因子について検討するため,血清CTRP9濃度の変化量を目的変数として重回帰分析を行ったところ,血清高分子量濃度の変化量の増加が有意な増加因子となった(β:97.24, t score:2.818, p=0.008)。
2)  2008年から2016年までの8年間において,血清CTRP9濃度変化量は,ACAIの変化量と負の相関を示した(rS=-0.367, p=0.009)。さらにACAIの変化量に影響した因子について,ACAIの変化量を目的変数として重回帰分析を行ったところ,増悪因子は移植時年齢の高齢化(β値:0.038、t score:2.639、p=0.011)であり,改善因子は血清CTRP9濃度変化量(β:-0.002、t score:2.110、p=0.041)およびHMW ADPN濃度変化量(β:-0.610、t score:2.733、p=0.009)の増加であった。
3)  移植腎組織において観察された蛍光免疫抗体法所見において,移植腎組織の新鮮凍結切片をもちいて免疫多重染色にてCTRP9の発現を検討し,さらにAdipoR1およびR2の血管内皮細胞上での共局在について検討した。その結果,血管内皮細胞に一致してCTRP9およびAdipoR1の発現が確認された。画像をmergeした結果,CTRP9およびAdipoR1の発現に一定の共局在が見られた。一方で,CTRP9とAdipoR2の発現には共局在は見られなかった。
【結論】
今回の研究において,血清CTRP9濃度の変化量の増加は,血清高分子量ADPN濃度の変化量と正の相関を,ACAIの変化量と負の相関を示した。また移植腎組織においてCTRP9とAdipoR1の発現に一定の共局在が見られたことから,CTRP9は血管内皮細胞上のADPN受容体であるAdipoR1との結合を介して動脈石灰化の進行を抑制する可能性が示唆された。今後はさらなる組織学的検討を進めると共に,長期的な前向き研究により,心血管合併症だけではなく,腎機能ならびに生命予後に関しても検討していきたいと考える。

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