T.肝と薬物代謝
脂溶性薬物の大部分は滑面小胞体の薬物代謝酵素によって行われる。この反応にはチトクロームP450、NADPH依存性P450還元酵素と酸素が関与している。
U.薬物の相互作用
A.酵素誘導薬:フェノバルビタール(+ジギトキシン、ワーファリン)、リファンピシン(+INH)
B.酵素阻害薬:ジスルフィラム;ALDH阻害剤、フェニトイン(アレビアチン);ワーファリンの代謝を阻害する
V.薬剤性肝障害の成立機序
薬物性肝障害は、薬物自身によって起こることは少なく、通常、薬物が代謝されて生じる活性代謝産物による中毒性肝障害の場合と、固体の過敏反応によるアレルギー性肝障害に大別される。
l 中毒性肝障害:薬剤自身の直接作用、投与量に依存、個体差なし
l アレルギー性肝障害:代謝産物がハプテンとなって抗原として働きアレルギー反応を引き起こす、投与量に無関係、過敏反応を示す特定の個体にのみ発症、発熱、発疹、関節痛、好酸球増多
W.薬剤性肝障害の病型と起因薬物
l 急性障害
1. 肝細胞障害型(肝炎型):ウィルス性急性肝炎に類似。トランスアミナーゼの上昇例:アセトアミノフェン、ハロセン
2. 胆汁うっ滞型:毛細胆管内の胆汁栓、肝細胞内の色素沈着。胆道系酵素(ALPなど)や直接ビリルビンの上昇。例:蛋白同化ホルモン、経口避妊薬、クロルプロマジン
3. 混合型:両者の混合。例:フェニトイン、キニジン、アロプリノール
4. 特殊例:ステロイド:脂肪肝、テトラサイクリン:脂肪肝(特徴的な微細脂肪性空胞)
l 慢性障害
1. 慢性肝炎:αメチルドーパ、INH、ニトロフラントイン(自己免疫性肝炎に類似、ANA陽性)
2. 肝内胆汁うっ滞:クロールプロマジン(PBCと組織学的に類似、AMA陰性)
3. アルコール性肝障害に類似:メソトレキセート(肝細胞周囲や中心静脈周囲の線維化)、アミオダロン、コラルギル(マロリー体、アルコール性肝炎様)
4. 肝血管病変:経口避妊薬(肝静脈血栓)、蛋白同化ホルモン(肝腺腫、肝細胞癌、血管肉腫)
X.薬剤性肝障害の診断
A.症状
全身倦怠感、黄疸、消化器症状(悪心・嘔吐、食欲不振、腹痛など)、肝腫大。
薬物アレルギー:発熱、発疹、皮膚掻痒感を認めることが多い。
B.血液生化学検査
トランスアミナーゼ上昇、胆道系酵素(ALP、γ-GTPなど)上昇、好酸球増多(6%<)。
C.診断基準
ウィルスマーカー陰性、起因推定薬物の投与中止による臨床症状、検査成績の速やかな改善。
D.薬物感受性試験
薬物アレルギー性肝障害では、薬物過敏の証明法として遅延型過敏症の細胞性免疫を利用した種々の検査法がある。Lymphocyte stimulation test(LST)、macrophage migration inhibition test(MIT)、leucocyte migration inhibition test(LIT)などが重要(とりあえず名前だけでも覚える)。
E.薬物再投与試験 challenge test
推定起因薬物を再投与して、臨床症状や検査所見から判断する方法。信頼性は高いが、倫理的に問題があり、意図的な再投与は行われていない。
Y.薬物性肝障害の治療
A.一般的治療
すべての薬物は薬剤性肝障害惹起する可能性のあることを念頭におき、薬物の投与を速やかに中止する。胆汁うっ滞が長期におよぶ場合には脂溶性ビタミン(vitamin A,D,E,K)の投与を行う。
B.薬物療法
副腎皮質ホルモン(ステロイド, 初期40mg程度, 以後漸減):肝内胆汁うっ滞に対して、抗炎症作用、胆汁流量の増加を期待して投与されることがある。
l ウルソデオキシコール酸(UDCA, 600mg/日):PBCに使われてきたUDCAは遷延性の肝内胆汁うっ滞にも投与される。作用機序として、@胆汁酸依存性胆汁流量の増加、A内因性胆汁酸がUDCAに置換される効果が推測されている。
l フェノバルビタール(60〜200mg/日):胆汁流量の増加、肝血流増加、グルクロン酸抱合の促進効果。
l コレスチラミン(6〜12g/日):消化管からの胆汁酸吸収を抑制するため、胆汁酸プールが減少し、血清胆汁酸濃度もさがる。
C.劇症化への対策
ハロセン、アセトアミノフェン、アドリアマイシン、Ara-Cなどで劇症化例が報告されている。
l ハロセン:頻回の麻酔に注意する
l アセトアミノフェン:N-アセチルシステイン投与
l アドリアマイシン:薬用量を少なくするよう注意する