肝硬変

T.概念

肝臓は長期継続した肝細胞の脱落の後に瘢痕組織となり、再生と偽小葉の形成とともに結節と線維で占められた硬い組織となる。多くの原因による慢性肝疾患の終末像であり、原因の如何にかかわらずほぼ同一の病態となる。わが国の肝硬変の原因は肝炎ウィルスが大部分を占める。

 肝硬変の病理学的基準

l       肉眼的結節の形成

l       間質性隔壁の形成(門脈と中心静脈を結ぶ。P-C結合)

l       肝小葉構造の改築(偽小葉の形成)

l       び漫性の病変

図. 肝硬変の組織像。左:H-E染色、右:Azan染色

wpe9.jpg (111767 バイト) wpeB.jpg (139905 バイト)

U.疫学

肝硬変の死亡率8位。肝癌の90%以上は肝硬変を伴っていることから、肝硬変の死因の60%以上は肝癌によるものである。

 肝硬変の3大死因

l       肝癌

l       食道静脈瘤破裂

l       肝不全

V.分類

l       成因による分類

1.   肝炎ウイルス:HBV、HCV

2.   ウイルス以外の感染・寄生虫:先天性梅毒,日本住皿吸虫

3.   アルコール性

4.   栄養障害性:Kwashiorkor, 腸管バイパス術後

5.   薬剤性,毒物性:oxyphenisatin, methyldopa, thorotrast

6.   自己免疫性:autoimmune hepatitis, 原発性胆汁性肝硬変(PBC)

7.   うっ皿性:右心不全

8.   ニ次性胆汁性:閉塞性黄疸

9.   先天性:

Wilson, hemochromatosis, galactosemia, glycogen storage disease, tyrosinosis, α1-antitrypsin deficiency

10. 原因不明のもの

l       臨床的分類

治療、予備能、予後の判定は臨床的分類が重要(Child-Pughの分類)

スコア

1点

2点

3点

脳症(grade)

なし

1度と2度

3度と4度

腹水

(−)

軽度

中等度

ビリルビン(mg/dl)

l〜2

2〜3

3以上

アルブミン(g/dl)

3.5以上

3.5〜2.8

2.8以下

プロトロンビン時間(秒)

l〜4秒延長

4〜6秒延長

6秒以上延長

PBCのビリルビン(mg/dl)

l〜4

4〜10

10以上

   各スコアを合計して下記のごとく診断する.

Grade A: 56

Grade B: 79 

Grade C: 1015

PBC: 原発性胆汁性肝硬変

 

W.肝硬変への進展

肝細胞壊死が繰り返されることによって、門脈を中心とした線維形成が進展する。P-C間の線維性隔壁の形成は偽小葉を形成し、通常の小葉単位での機能は失われる。肝細胞の再生は硬い線維性隔壁によって妨げられ、門脈血流の偽小葉内への流通も減少するため門脈圧は亢進する。そのうえ、線維性隔壁内の門脈・肝静脈シャントが形成され有効肝血流量は大幅に減少することになる。

 X.症状と診断

l       病態と所見

1.       門脈圧亢進症状:脾腫、腹水、食道静脈瘤

2.       肝実質機能の低下:各種蛋白の合成障害、腹水、黄疸

3.       シャント:高アンモニア血症、肝性脳症

l       身体症状:全身倦怠感、易疲労感、消化器症状、意識障害など

l       他覚所見

1.       肝触知:肝の左葉を正中線上で触れることが多く、肝は硬く、辺縁は鈍で、表面に凹凸不整を認めることもある。

2.       脾腫

3.       腹水、胸水、浮腫

4.       黄疸

5.       肝性脳症、羽ばたき振戦

6.       吐・下血

7.       クモ状血管拡張

8.       手掌紅斑

9.       女性化乳房

10.   腹壁静脈怒張

 l       診断

1.       末梢血:汎血球減少

1.       血液生化学検査:蛋白 アルブミンの減少とγグロブリンの増加(β-γ bridging)、ビリルビン 直接型が優位、GOT/GPT比の増加、小腸型ALPの増加、ChEの減少、コレステロールの減少

  

Y.合併症

1.       腹水

2.       食道静脈瘤

3.       肝性脳症

4.       肝癌

5.       胃潰瘍・急性胃粘膜病変、糖尿病、特発性細菌性腹膜炎(SBP)、DIC、腎不全(肝腎症候群)

¨      肝腎症候群:

肝腎症候群の診断基準

1.  重症肝疾患を有し,腎毒性物質の使用もなく,数日ないし数週間のうちに進行する腎不全である.(血清クレアチニン1.5mg/dl以上)

2.  初期には尿細管機能は正常である.

a)尿/血漿浸透圧比>1.0

b)尿/血漿クレアチニン比>30

c)尿中Na濃度<10mEq/L(しばしば5mEq/L以下)

3.   輸液にて中心静脈圧を10cmH20まで上昇させても上記所見が改善しない.

4.   上記診断基準に加えて下記の特徴的所見を有する.

a)尿蛋白は軽微で硝子および顆粒円柱が見られることがある.

b)通常尿量は800ml/日以下である.

c)腎不全は肝疾患の経過中に自然発生的に出現するが,感染,出血,腹腔穿刺および利尿薬などの血管内容量減少に付随する.

d)腎不全の初期の所見が,数日の内に尿細管障害を来し,等張尿,尿中Na濃度上昇,尿/血漿クレアチニン比の低下を示すことがある.同時に血清クレアチニン値の急激な上昇を示す.

e) 剖検時の組織所見は非特異的で,正常のこともある.

l   FENa=100×(U/P)Na/(U/P)Cr  FENa: fractional excretion of sodium

Z.治療

¨      生活指導:バランスのとれた食餌、腹水:減塩、肝性脳症:蛋白制限(40g/日)

¨      薬物療法

¨      腹水:利尿剤:抗アルドステロン剤(スピロノラクトン), ループ利尿剤(フロセミド)、アルブミン製剤

¨      肝性脳症:ラクチュロース、分枝鎖アミノ酸製剤、非吸収型抗生剤(カナマイシン、ネオマイシン)

¨      食道静脈瘤:硬化療法

¨      胃潰瘍・急性胃粘膜病変:H2-blocker、粘膜保護剤

¨      糖尿病:経口糖尿病薬

[.予後

非代償性肝硬変の50%生存期間は2〜5年と延長してきている。

肝硬変の予後を左右する因子

因 子

予後比較的良

予後不良

成 因

非代償性に

         至った因子  

治療に対する反応

肝性脳症

肝の大きさ

腹水 および

      消化管出血

組織像検査所見

脂肪性

明らかな場合:  

出血、感染、アルコール

門脈副血行路によるもの

 

 

肝細胞障害を伴わない

甲(乙)型

不明の場合

 

不良

肝細胞障害によるもの

 

肝細胞障害を伴う肝細胞壊死・炎症性細胞浸潤の強いもの