肝癌

T.肝細胞癌(原発性肝癌と同意語)

肝硬変に合併することが多い

HBV(25%)とHCV(70%)に感染しているものが肝癌患者の約95%を占める

男性に多い、60歳前後に好発。

病理

l       肉眼分類(Eggelの分類):@結節型(ひとつまたは数個の結節状の癌腫)、A塊状型(一葉を占めるような大きな癌腫)、Bび漫型(肝臓全体が小さな癌結節で置換)

 

 

l        組織学的分類:@細胞の分化度による分類(Edmondson-Steiner分類) T型, 核/胞体比が大きことを除くと正常肝細胞に類似、U型, 腫瘍細胞は偽腺管を呈し、索状配列を示す、V型, 腫瘍細胞はクロマチンに富み、大型で多核巨細胞をみる、W型, 小型の充実性増殖巣、核/胞体比はきわめて高い。

l      細小肝癌:最大径2cm以下の単発した肝癌で、@高分化型、A被膜を有する、B細胞の小型化、細胞密度の増加、染色性の増強、不規則な細索状配列あるいは偽腺管配列、胞体の淡明化、脂肪化などの特色を持つ。

臨床症状

早期には肝癌による症状は乏しいが、進行例では@発熱、腹痛、A腹腔内出血、B腫瘍随伴症状、C肝外転移による他臓器症状(骨転移に伴う骨折など)

l      腫瘍随伴症状:@代謝異常(低血糖、高コレステロール血症、高カルシウム血症、多血症)、A腫瘍による肝静脈閉塞のためBudd-Chiari症候群、B右房内腫瘍塞栓によるball-valve thrombus symdrome

l       転移:血行性転移が多い(肺、副腎、骨)

診断

l      腹部超音波検査:肝癌の特徴的所見は、@辺縁低エコー(thin halo)、A内部モザイク像(mosaic pattern)、B側方音響陰影(lateral shadow)、C後方エコー増強(posterior echo enhancement)。細小肝癌ではその確診のため、超音波誘導下で生検を行なって組織診断している。

l      CT MRI:@単純CTでlow density area、造影剤による造影効果(enhancement)をみとめる、AMRI:T1強調画像では一定の傾向がなく、T2強調画像では高信号を呈する。

l       血管造影:@不整な腫瘍血管の新生像(tumor vessels)、A腫瘍濃染(tumor stain)、B動静脈シャント(artrio-venous, artrio-portal shunt)、C門脈内腫瘍塞栓(tumor thrombus: thread and streak sign)

l       腫瘍マーカー:@AFP(α-fetoprotein)、APIVKA-U(protein induced by vitamin K absence or antagonist-U)

治療

l        経皮的エタノール局注療法(percutaneous ethanol injection therapy: PEIT)

      超音波ガイド下に純エタノールを直接肝癌に注入して、癌組織を壊死させる方法。適応:3cm以下、3病変以下が望ましい。

l        経皮的ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation: RFA)

      ラジオ波によって腫瘍を直接焼灼する方法で、エタノール局注療法では癌皮膜がエタノールの拡散を制限し、皮膜直下の癌細胞が壊死に至らない場合があるが、この方法では確実に癌細胞を壊死させることができる。

l        経皮経肝的肝動脈塞栓療法(transcatheter arterial embolization:TAE)

      肝癌の栄養血管である肝動脈にカテーテルを挿入し、塞栓物質を注入することによって、癌組織を阻血・壊死させる。塞栓物質:ゼラチンスポンジ、微小塞栓作用を有するリピオドール(油性造影剤)も併用される(lipiodolization)。リピオドールと抗がん剤を懸濁液として注入することもある(chemo-lipiodolization)。禁忌:門脈本幹に腫瘍塞栓が存在する場合、大きな肝内短絡路が存在する場合。きわめて肝予備能が低下している場合は超選択的にカテーテルを挿入し、塞栓範囲を少なくする必要がある。

l        化学療法

      肝動脈に持続的に抗がん剤を注入する方法(持続肝動注法)が試みられている。抗がん剤:アドリアマイシン、マイトマイシン、5FU、シスプラチン。

l        外科的切除

予後

切除例では3年生存率50%、5年生存率35%、TAE、PEITでもほぼ同様の治療効果が期待できる。

 

U.胆管細胞癌

胆管上皮由来の上皮性悪性腫瘍。肝硬変を背景とすることは少ない。組織学的には腺癌で、腺管構造や乳頭状の形態をとる。

l        症状:腹痛、黄疸、全身倦怠感、体重減少、発熱など

l        検査成績:胆道系酵素の上昇、CA19-9、CEA、DuPan-2などの高値、CTではhypovascularな腫瘍の描出

l        治療:外科的切除が基本。閉塞部位にはPTC-drainageも併用

 

V.転移性肝癌

l        転移経路:@経門脈性 胃、大腸、膵などの腹腔臓器の腫瘍、A経動脈性:肺、甲状腺、乳線などの腫瘍

l        頻度の高い原発臓器:胃癌、肺癌、膵・胆道癌、大腸癌

l        肝転移が高率な腫瘍:膵・胆道癌、胃癌、大腸癌、乳癌、肺癌、卵巣癌

l        画像診断:多発性腫瘤、CT:多くはlow density mass(大腸癌では石灰化を伴うこともある)、hypovasculartyを示すことが多い。

 

W.良性限局性病変

A.良性腫瘍

 

腫瘍

発生

病理

画像

LC,CHを背景病変

adenomatous hyperplasia(AH) 腺腫様過形成

広範な肝壊死や慢性の肝細胞破壊による肝再生刺激により再生結節の肥大化を生む

HCC発生(+)

境界明瞭な結節性病変 異型性に乏しい核 好酸性/淡明な胞体 索状/敷石状配列 病巣内に門脈域なし 脂肪化・ヘモシデリン・MB(+) 単発・多発

T2強調画像 HCC:high AH:isohypo 門脈を欠くためportographyで造影無し

LC,CHなどの背景病変なし

liver cell adenoma (LCA) 肝細胞腺腫

きわめてまれ HCC発生(-) 経口避妊薬の中止でほとんどは退縮 蛋白同化ステロイド Glycogen storage dis. (type Ia):高グルカゴン血症が増殖性を高める:多発、癌化(+)

通常単発 境界には被膜ないことが多いが、大きいものでは明瞭な線維性被膜を認めることもある 内部に出血性壊死 異型のない肝細胞が均一に増殖 病巣内に門脈域なし

血管造影: hypervascular 門脈を欠くためportographyで造影無し

focal nodular    hyperplasia (FNH) 限局性結節性過形成

過誤腫性病変 血栓説 肝動脈過形成による血流の増大        (Osler-Weber-Rendu dis) 避妊薬・ステロイドなど HCC発生(-)

中心瘢痕(無い場合も) 動脈・静脈を内包し、周囲に胆管の増生・リンパ球浸潤を伴う 核の過密化・染色性増加 腺管形成 単発

hypervascular 瘢痕内の動脈より腫瘤内へ広がる濃染像 NMR:T1,hypo, T2,hyper

nodular regenerative hyperplasia (NRH) 結節性再生性過形成

び慢性の肝細胞過形成ないし再生性結節 門脈圧亢進を伴うことあり 前癌病変

再生性結節 線維増生(-) 被膜形成(-) 核の過密化 腺管形成 単発・多発

 

 

hemangioma 血管腫

血管内皮腫 海綿状血管腫 (Kasabach-Merritt症候群-DIC)

蜂巣状の血管腔でその内腔は血管上皮が覆う

Echo:球状、高エコー CT:辺縁から中心へenhancement MRI:T1低信号、T2高信号(診断率高い) 血管造影: cotton wool, snowy tree appearance

 

B.肝嚢胞

l        分類(Henson)

  1. 先天性:単発性、多発性、胎生期での肝内胆管の発生異常。Polycystic disease(肝、腎、膵、脾など)

  2. 外傷性:肝実質の損傷部位に血液、胆汁などが貯留、仮性嚢胞

  3. 炎症性:膿瘍

  4. 腫瘍性:

  5. 寄生虫性:単(多)包虫症

l        症状:腫瘤触知、腹痛、出血、周囲臓器の圧迫。合併症:破裂、出血、感染、悪性化

l        診断

  1. 超音波:境界明瞭、内部無エコー

  2. CT:水に近いlow density、造影CTでは早期、後期とも濃染しない。

  3. MRI:T1低信号、T2高信号で血管腫との鑑別が必要

  4. 血管造影:嚢胞近くの脈管の弧状圧迫ないし伸展、造影剤の貯留はみられない。

l        治療:無症状例では放置、超音波穿刺下にエタノール注入

C.肝膿瘍

肝膿瘍は細菌や寄生虫などの感染により肝内に形成された限局性病巣をいう。

l        化膿性膿瘍

  1. 病因:@胆管由来(胆嚢・胆管炎)、A肝動脈由来(敗血症)、B門脈由来(虫垂炎)、C直接伝播(潰瘍の穿孔や膵炎)

  2. 症状:発熱、右季肋部痛、全身倦怠感、叩打痛を伴う肝腫大

  3. 検査所見:血液検査では白血球増多、赤沈亢進、CRP強陽性、胆道系酵素の上昇。画像診断では境界不鮮明、一部嚢胞状の腫瘤として描出される。

  4. 治療:PTC-drainage、抗生剤の投与

l        アメーバ性膿瘍

  1. 病因:赤痢アメーバが消化管から経門脈的に肝に感染する。アメーバは蛋白分解酵素を有しており、肝実質を破壊して膿瘍を形成する。膿瘍の内溶液は特徴的で、赤褐色調のアンチョビーソース様と表現される。

  2. 症状:発熱、黄疸、右季肋部痛

  3. 診断:好酸球増多、膿汁からのアメーバの検出、免疫学的検査法

  4. 治療:メトロニダゾール、デハイドロエメチン、クロロキン

l       超音波検査での肝区域