T.アルコールとその代謝
l アルコール飲料中のエタノール含有量:清酒1合、ビール(大ビン)1本、ウィスキー(ダブル)1杯はどれも約22gのエタノールが含まれている。エタノール1gは7.1kcalである。
l 飲酒によって体内に入ったエタノールは消化管から吸収されて肝へ輸送される。
U.肝細胞におけるアルコールの代謝
エタノール→アセトアルデヒド→酢酸へと酸化(代謝)される。
l アルコールの酸化:エタノール→アセトアルデヒド
1. アルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase:ADH)系:ADH系
2. マイクロソーム酸化酵素系(microsomal ethanol oxydizing system:MEOS):non-ADH系とも呼ばれ、その代謝酵素はチトクロームP450の一つである(P450 2E1)。
l アセトアルデヒドの酸化:アセトアルデヒド→酢酸
アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase:ALDH):ALDH2(low Km)はほとんどのアセトアルデヒドを代謝する重要な酵素であるが、遺伝的にこの活性の欠損している固体が存在することが知られている。このALDH2活性欠損者では飲酒後の血中アセトアルデヒド濃度の高値が持続して悪酔いの状態となりやすい。
V.肝細胞のredox shiftと肝障害の発生
A.肝細胞のredox shiftによる影響
l NAD/NADH(redox state):アルコール代謝に伴ってNADHが増加してくるが、これをredox shiftという。このredox shiftによって、NADHを優先して処理するようにミトコンドリアの機能に変化が生じる。すなわち、通常はTCAサイクルで生じたH+を処理しているTCAサイクルから呼吸鎖(ミトコンドリア電子伝達系)に至る経路が、アルコール代謝によって過剰に産生されたH+を優先的に処理するために使われてしまう。
l 脂肪酸のβ酸化によって産生されるNADHとACETYL-CoAはTCAサイクルによって代謝されるが、アルコール代謝に伴って産生されるNADH量がきわめて大きいとTCAサイクルはアルコールからのNADHの処理に占拠され、本来の脂肪酸のβ酸化が障害された状態となってしまう。このようなミトコンドリア機能の障害が脂肪酸の代謝を阻害する。一方、NADHの処理機構として働くグリセロール-3-燐酸の生成が亢進し、これらのことが合間って肝内に脂肪酸蓄積の原因となる。
B.肝細胞の脂肪化と高脂血症
l 脂肪酸酸化の抑制(β酸化)
l 脂肪酸合成の促進:脂肪酸の骨格となるグリセロール-3-燐酸の増加
l 食餌脂肪の増加
l 脂肪組織からの脂肪酸の動員(高カテコールアミン血症による)
l 高脂血症:肝内に蓄積した脂肪酸とグリセロール-3-燐酸から中性脂肪が生成され、血中に放出されるため(W型, VLDL高値, 中性脂肪)
W.アルコール性肝障害の病理
特徴的所見は小葉中心部に認められる
l 肝細胞の脂肪化
l 肝細胞の風船様変化
l アルコール硝子体
l 巨大ミトコンドリア
l 肝細胞の変性・壊死部位の好中球浸潤
l 肝線維化:細胞周囲性線維化(pericellular fibrosis)、中心静脈周辺部の線維化(pericentral fibrosis)
X.アルコール性肝障害の病型
l アルコール性脂肪肝:小葉の1/3以上にわたる脂肪化
l アルコール性肝線維症:細胞周囲性線維化(pericellular fibrosis)、中心静脈周辺部の線維化(pericentral fibrosis)
l アルコール性肝炎:
1. 黄疸、発熱、腹痛
2. アルコール硝子体(Mallory body)
3. 好中球浸潤を伴う肝細胞壊死
4. 肝細胞の風船様変化(ballooning)
l アルコール性肝硬変
l
アルコール性肝障害と肝炎ウィルス感染症との合併
アルコール性肝障害の診断基準試案抜粋(文部省総合研究(A)高田班、1991)
A.アルコール性肝障害
1.常習飲酒家である(3合、5年以上)。
2.禁酒によりGOT、GPTが著明に改善(4週で80単位以下、前値が100以下の時は正常値まで)。
3.γ-GTPも著明に低下(4週で前値の40%以下か、正常値の1.5倍以下)
4.肝も著明に縮小(肝下縁は弱打診か超音波で確認が望ましい)。
5 .以下のアルコールマーカーが陽性であれば診断はさらに確実。
1)血清トランスフェリンの微小変異。
2)CTで測定した肝容量の増加(720cc/体表面積m2)。
3)アルコール肝細胞膜抗体が陽性。
4)GDH/OCT比が0.6以上。
B.アルコール+ウィルス性肝障害
ウィルスマーカーが陽性で、禁酒後のGOT、GPTの変化を除きアルコール性肝障害の条件を満たすもの。GOT、GPTの値は、禁酒4週後には120単位以下にまで、禁酒前の値が120単位以下の場合は70単位以下まで下降する。
C.その他
上記の条件を満たさない場合には例え大酒家であってもアルコール性肝障害とすることは困難である。
アルコール性肝障害の組織学的分類(文部省総合研究(A)高田班抜粋)
1.非特異的変化群:非特異的変化を認めるのみのもの
2.脂肪肝:肝病変の主体が肝障害小葉の3分の1以上にわたる脂肪化
3.アルコール性肝線維症:肝病変の主体が
@中心静脈周囲性の線維化
A肝細胞周囲性の線維化
B門脈域から星芒状にのびる線維化のいずれか、ないしはすべて
4.アルコール性肝炎:肝組織病変の主体が肝細胞の変性・壊死
1)定型的:
@小葉中心部の肝細胞の風船化
A肝細胞壊死
Bマロリー体
C多核白血球の浸潤
上記すべてか、BまたはCのいずれかを欠くもの
2)非定型的:
BとCの両者を欠くもの
5.重症型アルコール性性肝炎:多臓器の障害やエンドトキシン血症を伴い、多くは1ヵ月以内に死亡
6.慢性肝炎:犬山あるはヨーロッパ改訂分類に一致するもの
7.肝硬変:定型例では小結節性、薄間質性である