PBC

T.胆汁排泄機構

A.胆汁排泄機構の解剖

毛細胆管→細胆管→小葉間胆管→隔壁胆管→肝内胆管→肝管→総肝管→総胆管

 l           小葉間胆管は外径20-80μmで、門脈枝や動脈枝とともにグリソン鞘内を走っている。隔壁胆管は上皮が立方円柱上皮様となり、周囲に密な線維を伴っている。

B.胆汁生成

胆汁には、胆汁酸排泄量に比例してその流量が増加する分画(胆汁酸依存性胆汁)と胆汁酸排泄量には依存しない分画(胆汁酸非依存性胆汁)がある。

l           胆汁酸の代謝と輸送:胆汁酸は肝でコレステロールから生合成される一次胆汁酸とそれが腸管内に排泄されて脱水・酸化を受けて生成される二次胆汁酸がある。肝で生成された胆汁酸はグリシンまたはタウリンと抱合され、毛細胆管に排泄される。胆管内に排泄された胆汁酸はリン脂質とコレステロールとともに複合ミセルを形成してコレステロールを溶存させ、腸管内では脂質の吸収に重要な役割をはたしている。胆汁酸は回腸末端部で吸収され、門脈を経由して再び肝にもどる、いわゆる腸肝循環(entero-hepatic circulation)を行っている。

 U.原発性胆汁性肝硬変(Primary biliary cirrhosis: PBC)

PBCは慢性非化膿性破壊性胆管炎(chronic non-suppurative destructive cholangitis: CNSDC)により胆管が破壊され、慢性の肝内胆汁うっ滞をきたし、最終的に肝硬変に至る疾患である。

A.病因と病理

胆管上皮細胞を標的とした自己免疫機序が関与して胆管破壊が起こると考えられている。

Scheuerの病期分類

l           T期(florid bile duct lesion):胆管上皮は腫大し、不整形となり、好酸性を増す。胆管腔も不整となり、基底膜の断列像、胆管の破壊像がみられる。胆管周囲にはリンパ球、形質細胞、好酸球の浸潤がみられる。肉芽腫を認めることもある。

l           U期(ductular proliferation):胆管は消失、胆管上皮の増生をみとめる。

l           V期(scarring, septal fibrosis and bridging):門脈域からの線維の進展、piecemeal necrosisも認められるようになる。

l           W期(cirrhosis):肝硬変期

B.病態生理

胆管病変に始まり、胆管の消失により、慢性の胆汁うっ滞をもたらす。このため、胆汁酸や銅の排泄が障害されて肝細胞内に蓄積するため肝細胞障害を引き起こす。また、胆汁の流出障害のため高ビリルビン血症となり、黄疸をみとめる。脂溶性ビタミン(vitamin A, D, E, K)の吸収障害にるビタミン欠乏症が起こることがある。

C.臨床症状

l           PBCは症候性と無症候性に分けられ、ほとんどの症例が40歳以上の女性に発症する。Sjogren症候群、関節リュウマチや慢性甲状腺炎(橋本病)もしばしば合併することがある。

l           無症候性:臨床症状は認めず、検査成績のみによって診断される。

l           症候性:掻痒感、黄疸、全身倦怠感などが初発症状で、手掌、手指、足蹠などに黄色腫(xanthoma)がみられることがあり、特に眼瞼では黄色板(xanthelasma:内側から始り、眼瞼に沿って外側に広がる)とよばれる。

D.臨床検査

l           ALPやγGTPなどの胆道系酵素活性値の上昇が著しい。

l           コレステロール上昇。

l           血清IgMの上昇。

l           抗ミトコンドリア抗体陽性(anti-mitochondrial antibodyAMA)、このうちM2分画はピルビン酸脱水素酵素に対する抗体で、PBCに特異的とされている

E.鑑別診断

F.予後

無症候性は予後良好。症候性でも黄疸のみられないものは比較的予後がいい。予後を左右する最大の因子は黄疸である。

G.治療

l           ウルソデオキシコール酸(UDCA) 600mg/

l           コレスチラミン:掻痒感に有効

l           コルヒチン

l           脂溶性ビタミンの補給

 

1)原発性硬化性胆管炎: Primary sclerosing cholangitis(PSC)

PSCは肝内および肝外胆管の硬化性変化、線維化を伴う慢性炎症性疾患。ERCで胆管の不整な狭窄と拡張を認める(beaded appearance)。組織学的には門脈域に線維化と細胆管の増生、胆管周囲にも線維化を認める。潰瘍性大腸炎と合併することがある。

l           Schwartzの診断基準:@肝外胆管のび漫性炎症性肥厚、A胆道手術の既往が無いこと、B胆石が無いこと、C胆管癌が否定されることの4項目を挙げた。

 

2)自己免疫性胆管炎: Autoimmune cholangitis(AIC)

PBCと類似の組織像を呈しながら、抗ミトコンドリア抗体が陰性で、抗核抗体陽性のもの。PBCと自己免疫性肝炎とのoverlapとの見方もあり、現在一定の見解はない。

 

3)先天性肝線維症: Congenital hepatic fibrosis

肝内胆管枝レベルの発生異常を背景に持つが、胆道系の病状はほとんど示さず、むしろこれに合併ないし続発する肝内門脈枝周辺の線維化から門脈圧亢進症状を呈する特異な病態を示す疾患。グリソン鞘内には異様な胆管増生(von Meyenburg complex:大小不整な形状の内腔を持つ胆管多数存在、脈管系はむしろ乏しい。一部血管内皮細胞様上皮も混在し、血管腫を思わせる。)とこれを取り囲む著明な線維化を認める。比較的若年(1020歳台)で静脈瘤からの出血を認める。診断上のポイントは@家族歴、A肝硬変症状を欠く、B肝脾腫を認める、C血管造影で動脈枝と門脈枝の減少と門脈本幹の開存、D肝静脈系には異常を認めない。発生学的異常部位は嚢胞状拡張がかなり太い肝内胆管枝に留まるCaroli病と、かなり小細な胆管枝に異常をきたす肝嚢胞症は中間レベルの胆管枝の異常に基づいている。門脈圧亢進症は肝内門脈閉塞症(pre-sinusoid)をとる。

  

ちょっと一休み---病態の比較です

 1. 胆管病変と門脈圧亢進症をきたす疾患の比較

 

胆管障害レベル

門亢症

肝嚢胞症

小細な胆管枝

×

先天性肝線維症

中間的胆管枝

Caroli

太い胆管枝

×

特発性門脈圧亢進症

なし

 2. 銅代謝異常の比較

 

肝内銅含有量

血清銅濃度

セルロプラスミン

セルロプラスミン非結合銅

尿中銅排泄

Wilson病

増加

減少

減少

増加

増加

PBC

増加

増加

正常〜増加

増加

増加

l           血清銅の7090%はセルロプラスミンと結合して存在する。