T.胆石の種類と特徴
A.コレステロール胆石
l 純コレステロール石:胆嚢内に1個のことが多い
l 混合石:コレステロールとビリルビンが混合している
l 混成石:コレステロールを主成分とする内層と他の成分、特にビリルビンカルシウムを主成分とする外層からなる。
B.色素胆石
l 黒色石:砂状、金平糖状、時に球形、十数個存在することが多い。黒く見えるとはいえ、ビリルビンの重合体、炭酸カルシウム、燐酸カルシウムなどその主成分はまちまち。
l ビリルビンカルシウム石:ビリルビンカルシウムが主成分で、銅やマンガンなどとも結合している。年輪のような層状構造が特徴。コレステロールを含むことも多い。胆管内だけにあるものはビリルビンカルシウム石がほとんどだが、胆嚢と胆管にある場合にはビリルビンカルシウム石とは限らない。
C.稀な胆石
l 炭酸カルシウム石:石灰乳胆汁
l 脂肪酸カルシウム石:パルミチン酸が主成分
U.U.胆石の成因と生成機序
l コレステロール胆石:胆汁の主成分である胆汁酸、リン脂質(大部分はレシチン)、コレステロールであるが、胆汁酸+レシチン/コレステロール比が低下するとコレステロールが析出しやすくなる(lithogenic bile)。
l ビリルビンカルシウム胆石:胆道内に感染した、大腸菌や嫌気性菌の菌体からβグルクロニダーゼが放出され、抱合型ビリルビンが加水分解されて、非抱合型となり、ビリルビンカルシウムとして析出する。また、溶血では非抱合型のビリルビンが直接肝から分泌される。
l 他疾患に合併する胆石
l 遺伝性球状赤血球症、胃切除後、肝硬変、心弁置換術後、小腸・大腸疾患・術後:赤血球破壊による高ビリルビン血症、胆嚢の収縮機能不全などが原因。
V.臨床症状
l 腹痛:胆嚢胆石が胆嚢頚部や胆嚢管にはまりこんで平滑筋の攣縮を引き起こすことから生じる仙痛発作である。過食、脂肪食が誘引となって、右季肋部から心窩部にかけて発作性の激痛となることが多い。痛みは夕方から深夜に出現する。細菌感染が加わって炎症をおこすと痛みは持続的となる。
l Murphy症状:右季肋部を圧迫したまま深呼吸させると、痛みのため途中で止まってしまう状態→胆嚢炎
l 発熱:一過性の発熱をみることがある。悪寒戦慄をともなう高熱が持続するときには、化膿性胆嚢炎や急性胆管炎の合併を考える。
l 黄疸:胆石が胆嚢頚部に嵌入して腫大し、胆嚢が胆管を圧排し、黄疸が出現する場合がある。胆石が総胆管に落ちて、乳頭部に嵌頓した場合には黄疸は高度である。
l 悪心・嘔吐
*胆石の4F:1)Forty or Fifty、40から50歳 2)Female、女性 3)Fatty、太っている 4)Fair、全身状態のいい。
W.検査所見
l 身体所見:発作時には、上腹部に腹壁の緊張と強い圧痛を認める。腫大した胆嚢を浮球感を持つ胆嚢として触知することがある。
l 臨床検査成績:胆道系酵素、ビリルビンやトランスアミナーゼの上昇。感染を伴えば白血球の増多。
l 超音波検査(土屋の分類):Iaはコレステロール石、Vはビリルビンカルシウム石
l 急性胆嚢炎:胆嚢壁の浮腫を反映して、肥厚した3層構造がみられる(sonolucent layer)。
l 急性閉塞性化膿性胆管炎:仙痛、悪寒戦慄を伴う間歇性の発熱、黄疸等の症状はCharcotの3徴と呼ばれ、さらにショックと意識障害を加えたReynoldsの5徴等の症状は重篤な胆管炎のサインで予後不良である。
合併症
l 胆嚢炎・胆管炎
l 胆嚢穿孔・胆汁性腹膜炎
l 膵炎
l 胆嚢癌:有症状胆石患者での胆嚢癌合併率は高く、無症状胆石患者では癌発生率は必ずしも高くないので定期的に観察すればよい。
Y.胆石の治療
A.内科的治療
胆石溶解剤:ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸の服用
l 胆石溶解療法の適応:a)胆嚢機能を有するもの、b)X線透過性石:CT上非石灰化石(コレステロール石)、c)胆石の直径が20mm以下
l 体外衝撃波胆石破砕法(Extracorporeal shock wave lithotripsy: ESWL)
原理:衝撃波は音より早く伝わる圧力波(粗密波)である。我々が聞く音は非常に弱い圧力波で音速で伝わる。音圧が増大すると音は音速を超える速度で伝わるようになり衝撃波となる。人体は基本的には水と同様にこの衝撃波を伝えることができるが、石(胆石)と水との間には大きな音響インピーダンス(音の伝わり安さ)の差がある。このため衝撃波が石を通過するとき、石に歪みが生じ、数回の衝撃波照射で石は破砕される。
適応基準:a)胆嚢内結石では結石の大きさは3cm、個数は3個以内。b)石は可動性があって、X線透過性(石灰化のない)のコレステロール結石。
l 手術療法
絶対的適応:@胆嚢穿孔、A胆石が頸部に嵌頓して胆嚢畜膿、B胆嚢癌の合併、C急性胆嚢炎では待機的に行うのが一般的
相対的適応:@高齢者、A他疾患に合併した胆石
l 腹腔鏡下胆嚢摘出術:胆嚢炎の既往のない場合に考慮
Z.胆道悪性腫瘍
胆道癌は肝外胆道系に発生する癌腫
A.胆道癌
l 胆嚢癌:胆嚢壁はきわめて薄く、粘膜筋板を欠くため癌の進展が早い。
² 診断:@腫瘍マーカー CEA、CA19-9、A超音波検査 壁不整、肥厚、胆嚢の変形など、BCT、胆嚢造影(ERC、PTC-C)
² 予後:固有筋層までに留まっているものでは予後は良好。浸潤しているものではきわめて予後不良となる。
l 胆管癌:多くの場合黄疸が初期症状となる
² 2 診断:@胆道系酵素上昇、A腫瘍マーカー CEA、CA19-9、BPTC、ERC
l 乳頭部癌:黄疸で発症
B.胆嚢良性腫瘍
l コレステロールポリープ:5mm以下で複数、桑実状となる
l 炎症性ポリープ
l 上皮性腫瘍(腺腫、化生性ポリープ)
[.先天性胆道拡張症
l 先天性総胆管拡張症(先天性胆管嚢腫):T型 総胆管嚢胞状拡張症、U型 胆管憩室、V型 十二指腸内胆管嚢腫に分類(Alonso-Lejの分類)されるが、T型がほとんど。総胆管膵管合流異常の合併することが多い。主症状は黄疸、腹部腫瘤、腹痛が3徴。下部胆管の炎症、閉塞をくり返し、悪性病変を合併することがある。
l 先天性肝内胆管拡張症:Caroli病(先天性、家族性の小葉間胆管の拡張)
\.膵管胆道合流異常
l 膵管と胆管が十二指腸乳頭開口部より上流の十二指腸壁外で合流するもの、あるは膵管と胆管が異常な形で合流する先天性の奇形をいう(日本膵管胆道合流異常研究会、1987、胆と膵8:115, 1987)。本症では十二指腸乳頭括約筋に囲まれない高位で膵管と胆管が合流し、括約筋の機能が合流部に及ばないため、膵液と胆汁の相互混入をきたし、その結果膵炎、胆管炎、胆道癌、胆道結石などの合併症を発生させる。なお、先天性肝内胆管拡張症は膵管胆道合流異常を伴うことが多く、両者は同一範疇に属すると考えられている。
l l 分類:@拡張型:胆管の拡張を伴う→嚢胞状拡張型と紡錘状拡張型に細分される、A非拡張型:胆管の拡張を伴わない。胆管と膵管の合流形式による分類(木村の分類 日消誌73:401, 1976):@T型:胆管に膵管が合流する、AU型:膵管に胆管が合流する。