腹痛は、その発生機序から内臓痛、体性痛、関連痛の3種類に分けられる(表)。
表 内臓痛と体性痛の比較 |
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内臓痛 |
体性痛 |
発生機序 |
管腔臓器の攣縮や拡張 実質施器の牽引や腫脹 |
壁側腹膜、腸間膜、横隔膜の炎症、物理的・化学的刺激 |
求心路 |
交感神経の求心性線維(無髄性) |
脳脊髄神経性求心性線維(有髄性) |
性状 |
鈍痛、疝痛 |
突き刺すような鋭い痛み |
周期的、間欠的 |
持続的 |
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部位 |
腹部の中心線上、対称性、局在性に乏しい |
非対称性 |
放散痛 |
伴うことあり |
なし |
体動の影響 |
軽減することが多い |
増悪することが多い |
自律神経症状 |
しばしば伴う |
なし |
薬剤 |
鎮痙剤が有効 |
鎮痛剤が有効 |
手術 |
禁忌のことが多い |
緊急手術の適応となることが多い |
1)内臓痛
管腔臓器の虚血や炎症などに由来する攣縮や拡張、実質臓器の牽引や腫脹による被膜伸展によって起こる。管腔臓器が強く攣縮した場合を疝痛colicky painと呼ぶ。
2)体性痛
壁側腹膜、腸間膜、横隔膜の炎症、物理的あるいは化学的刺激によって発生する。突き刺すような鋭い痛みを特徴とし、持続的かつ限局性で、体動によって増強することが多い。
3)関連痛
内臓痛が強くなると、脊髄後根で同一脳脊髄神経側に刺激が洩れて、その神経分節に属する皮膚領域の痛みとして感じることが多く、これを関連痛と呼んでいる。関連痛のうち腹部外に感じられるものを放散痛という。関連痛は限局性の明確な痛みとして感じられ、臓器によってその発生部位はほぼ決まっているため、診断上の有力な手がかりとなる(図Y-18)。
a. 問診のポイント
@痛みの部位、A性状、B起こりかた、C増悪あるいは寛解因子、D随伴症状の有無、E既往歴について行う。
b. 診察のポイントと検査
意識レベル、呼吸、脈拍、体温、血圧などの全身状態を把握し、ショック症状があるときは直ちにその治療を行う。
1)視診
Ø 体位:消化管穿孔や急性膵炎では前屈位で身体をじっとさせている。
Ø 腹部膨隆:腹水、鼓腸、大きな腹部腫瘤などが考えられる。
Ø 蠕動不穏、腹壁ヘルニア、手術瘢痕:これらはイレウス、腸管癒着症の診断に役立つ。
2)聴診
Ø 機械的腸閉塞:腹膜炎を合併し麻痺性イレウスになると腸雑音は消失する。
Ø 腹部大動脈瘤や腹部大動脈の狭窄:病変部位に収縮期雑音を聴取することがある。
3)触診
痛みを訴える場所からなるべく遠い部位から触診を始め、徐々に有痛部に移っていく。触診は、手掌全体で腹壁を軽く触ることから始め、徐々に右手の第2、3指の指先に力を入れ深部まで触るようにしていく。腹腔内の臓器(肝、脾、腎)の腫大や腫瘤、圧痛の有無をみる。
Ø
腹膜炎:筋性防御、筋硬直、反跳痛、Blumberg徴候
Ø
胆嚢炎:Murphy徴候
Ø
虫垂炎:McBurney点の圧痛点
Ø
過敏性腸症候群:痙攣したS状結腸をソーセージ状の牽状物として触れる
Ø 腎結石や腎孟炎:背部から両側の腎部の肋骨脊柱角に叩打痛を認める
4)打診
Ø 肺肝境界の消失:消化管穿孔
Ø 鼓音:呑気症・イレウスでは腹部の中央部あたりに、また脾彎曲部症候群では左季肋部に著明な鼓音
Ø 体位変換現象:体位変換によって濁音界が変化…腹水の貯留
5)直腸指診
Douglas窩膿瘍、直腸癌、直腸周囲膿瘍、骨盤腔内腫瘤などの診断には極めて有用である。指診時に付着する血液や膿粘液の有無にも注意する。
6)臨床検査
問診と診察によって鑑別すべき疾患はある程度絞られるが、検尿、検血、赤沈、検便、腹部単純X線検査などのルーチン検査と、血液・生化学検査、腹部超音波検査を、また消化管疾患が疑われる場合は消化管造影あるいは内視鏡検査を行う。