黄疸は日常診療でよく遭遇する重要な徴候であり、その鑑別診断は治療決定のため迅速かつ的確になされなければならない。問診、診察でおおよそ肝前性(溶血性)、肝性、肝後性(閉塞性)のいずれかを予測できるが、困難な場合は超音波検査を始めとする画像検査を駆使することにより確実に診断できる。
a. 問診のポイント
1)家族歴
祖父母、両親・同胞に黄疸のある人がいるか。配偶者の肝炎歴(とくにB型肝炎)。遺伝性溶血性貧血、体質性黄疸、B型肝炎集積家系、代謝性肝疾患の診断に重要な手懸かりとなる。
2)既往歴
居住歴、過去の黄疸歴、手術歴、輸血歴、腹部打撲歴、薬剤使用歴(市販薬、漢方薬、やせ薬などを含む)、飲酒歴。
3)現病歴
a)黄疸の出現が急激か、緩徐か、および変動性か、持続性か。
b)黄疸に付随する他の症状(感冒様症状、発熱腹痛、貧血症状、意識障害)とその出現時期。
c)尿が褐色か、赤ワイン色か。
d)便の色は灰白色か黒色か。
e)皮膚掻痒感。
f)全身状態(体重、食欲、貧血、意識レベル)の推移は黄疸の原因のみならず病状の悪化度を反映する。
g)黄疸出現前6か月の生活歴(肝炎蔓延地域への旅行、魚介類の生食、飲酒歴、輸血歴、針治療歴、薬剤歴、不特定者との性交渉など)は急性肝炎の原因の解明に必要。
h)妊娠中か。
b. 診察のポイント
1)黄疸の確認
自然光のもとで観察する。軽度の黄疸は人工光(蛍光燈、電燈)では正確に観察できない。観察部位は眼球結膜で行う。手掌の黄色は柑橘類や黄色野菜の過剰摂取でみられるので黄疸と間違えやすい。血清ビリルビンが2.0mg/dl以上になると黄疸と認識できる。
黄疸の色調から、透きとおった黄色は溶血性黄疸、赤味を帯びた濃い色調は肝性黄疸、濃く緑褐色調が強い場合は閉塞性黄疸といわれるが、黄疸の程度・持続期間により変化するので絶対的なものではない。
2)全身所見
意識障害は重症肝障害の存在を意味する。発熱は急性肝炎、胆道感染症でみられる。貧血の存在は溶血性黄疸、肝硬変あるいは消化管出血を示唆する。浮腫・腹水は重症肝障害を示唆する。全身のリンパ節腫脹は急性ウイルス肝炎、伝染性単核球症、サルコイドーシス、結核、リンパ腫でみられる。
3)局所所見
a)皮膚
引っ掻き傷(黄疸によるかゆみ)、くも状血管腫・手掌紅斑(肝硬変の存在)、黄色腫(慢性肝内胆汁うっ滞)、出血斑(重症肝障害、肝硬変)をみる。
b)胸部
女性化乳房(肝硬変、抗アルドステロン利尿薬内服)。
c)腹部
視診:腹壁静脈の怒張(肝硬変、Budd-Chiari 症侯許)、腹部膨隆(腹水、腹部腫瘤)。
聴診:肝癌、膵癌など腹部腫瘤の動脈の圧排、動静脈瘻形成による血管雑音、腹水による腸蠕動音の低下。
Ø 打診:肝臓・脾臓濁音界、腹部腫瘤、腹水の診断。
Ø 触診
@肝臓:表面平滑で緊張した肝は急性肝炎や肝外閉塞性黄疸でみられる。アルコール性肝炎や急性肝炎初期には圧痛がある。硬く凹凸不整の肝臓は肝硬変であり、腫瘤は原発性・転移性肝癌でみられる。
A胆嚢:Courvoisier徴候(三管合流部以下の閉塞疾患)、Murphy徴候(急性胆嚢炎)、硬い腫瘍(胆嚢癌)。
B脾臓:腫大は肝硬変、溶血性貧血、伝染性単核球症、時には急性ウイルス性肝炎の初期にも触れる。
Cその他:肝臓や肝門部リンパ節に転移を起こす原発腫瘤の触知、妊娠子宮など。
c. どんな病気が考えられるか
黄疸の出現のしかたより考えられる代表的な疾患。
n 急激に出現:急性肝炎、劇症肝炎、アルコール性肝炎
n 緩徐に出現:閉塞性黄疸—総胆管癌、膵頭部癌、肝硬変・肝細胞癌
n 変動性:胆管結石、発作性夜間血色素尿症、寒冷凝集素症
n 持続性:肝内胆汁うっ滞、溶血性黄疸、体質性黄疸
d. 鑑別診断の実際
黄疸の鑑別は間接ビリルビンと直接ビリルビンのいずれが有意かをまずみることである。間接ビリルビンが有意の場合は溶血性黄疸、シャントビリルビン血症、体質性黄疸を考える。溶血性黄疸の診断は網状赤血球増加、赤血球寿命短縮、LDH高値、ハプトグロビン低値などで確診される。溶血性黄疸が否定された場合シャント高ビリルビン血症、体質性黄疸を考える。
直接ビリルビンが有意に高値を示す場合、まず行うべき検査は超音波検査である。肝内、肝外胆管の拡張があれば閉塞性黄疸を、なければ肝細胞性黄疸ないし肝内胆汁うっ滞を考える。
黄疸の分類---重要!
1. 溶血性黄疸(シャント高ビリルビン血症):溶血や無効造血
2. 肝細胞性黄疸:肝細胞壊死と関連した黄疸---急性肝炎、肝硬変
3. 閉塞性黄疸(肝内・肝外):胆道系の機械的閉塞---総胆管結石、胆道癌、膵頭部癌
4. 肝内胆汁うっ滞症:胆管系の閉塞や拡張のないうっ滞---薬剤性肝障害、原発性胆汁性肝硬変
5. 体質性黄疸---間接ビリルビン優位:Gilbert症候群、Crigler-Najjar症候群
直接ビリルビン優位:Dubin-Johnson症候群、Rotor症候群