T.膵液の組成と作用
A.膵外分泌腺の機能的構成
l 腺房細胞から消化酵素を分泌
l 導管系細胞から水と重炭酸イオンを分泌
l 両分泌液が混じて膵液となる。膵液はアルカリ性で、1日約1〜1.5L分泌される。
B.膵液中の蛋白成分
l 活性型として分泌:アミラーゼ、リパーゼ
l 不活性型として分泌:トリプシン(腸内のエンテロキナーゼで活性化)、キモトリプシン、エラスターゼ、フォスフォリパーゼA2
l インヒビター:トリプシンインヒビター(PSTI:膵管内でのトリプシンの活性化を阻害する)
C.膵液中の電解質
l 陽イオン:Na+、K+
l 陰イオン:HCO3−(重炭酸イオン)、Cl−
l 膵液中の重炭酸イオンは血漿中の3〜5倍も高濃度で、十二指腸中で胃酸を中和する働きを持っている。
U.腺房細胞と導管系細胞の分泌機序
l 腺房細胞:コレシストキニン、アセチルコリン→チモーゲン顆粒の放出
l 導管系細胞:セクレチン、VIP→膵液と重炭酸イオンの分泌
V.膵炎の概念
l 急性膵炎:自己消化による無菌的な炎症、これに細菌感染が加わって化膿性炎症となる
l 慢性膵炎:炎症の持続・進行に伴う不可逆的な膵組織の壊死・萎縮・線維化であり、外分泌・内分泌の障害が進行する
l 組織障害性酵素
1. 蛋白分解酵素:トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ1
2. 脂質分解酵素:フォスフォリパーゼA2、リパーゼ
重要:アミラーゼは膵および周辺臓器を障害することはない!!
したがって、アミラーゼの上昇は膵炎の病態と関連しない。アミラーゼ値が高いからすぐ膵炎では絶対ない。
W.膵炎の分類
急性膵炎A.病理
l 急性間質性膵炎:軽症型で膵実質の壊死はない
l 急性出血性壊死性膵炎:重症型で膵実質の出血・壊死と膵内外の脂肪
B.原因・誘因
C.臨床像
l 疼痛:疼痛の強さは多様であるが、激烈なことが多い。この疼痛は背臥位で増強し、前屈位でやや軽減するのが特徴(膵臓姿勢: pancreatic posture)。
l 悪心・嘔吐
l 腹部膨満感:膵炎に伴う麻痺性イレウス、腹水、腹部腫瘤などによる。
l 発熱
l 黄疸:胆石や腫大した膵による膵内胆管の閉塞による胆汁うっ滞、膵酵素による肝障害、胆道感染などによる。
l 皮膚症状
u Grey-Turner徴候:左側腹部の皮膚が暗赤色
u Cullen徴候:臍周囲の皮膚が暗赤色となることで、血性滲出液の腹腔内貯留による。
D.重症膵炎の臨床像
u ショック:循環血漿量の減少、ブラディキニンなどの血管作動物質の増加
u 腎障害:乏尿、無尿
u 呼吸不全:フォスフォリパーゼA2が肺のサーファクタントを傷害するため
u 意識障害
u 出血傾向、消化管出血
E.急性膵炎の診断基準
F.検査所見
l 血中・尿中膵酵素:アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン、エラスターゼ1などの上昇
l アミラーゼ・クレアチニンクリアランス比(ACCR):尿中アミラーゼ濃度×血中クレアチニン濃度/血中アミラーゼ濃度×尿中クレアチニン濃度(%) 正常では1.0〜4.7%である。
l エックス線検査
u Sentinel-loop sign
u Colon cut-off sign
u 超音波・CT検査:膵腫大、滲出液貯留、仮性嚢胞、炎症性腫瘤
(膵腫大とは、膵頭部では椎体の横径以上、膵体・尾部では横径の2/3以上をいう)
G.急性膵炎重症度判定基準:入院後48時間以内に行う
表18.55急性膵炎重症度判定基準 |
|||
重症度判定基準の予後因子 |
|||
A.臨床徴候 |
B.血液検査成績 |
C.画像所見 |
|
@ショック @呼吸困難 @神経症状 @重症感染症 @出血傾向 |
@BE≦-3mEq/L @Ht≦30% @BUN≧40mg/dl |
ACa<7.5mg/dl AFBS≧200mg/dl APaO2≦60mmHg (room air) ALDH≧700IU/L |
AGradeW,
X US: CTの判定法に準じて判定し参考資料とする. |
l 重症:予後因子@が1項目でもあれば重症、予後因子Aが2項目以上も重症
l 中等症:予後因子@はなく、予後因子Aが1項目だけの場合を中等症
l 軽症:予後因子@とAの何れも認めないのもを軽症
H.治療
l 疼痛対策:鎮痛剤(モルヒネを使うこともあるが、単独で使用すると、それ自身のOddi筋収縮作用のため膵炎の悪化を来すので禁忌である。必ず、アトロピン製剤と併用する。例:オピアト)
l 循環管理:大量の補液
l 膵庇護:絶食、蛋白分解酵素阻害剤、胃液吸引、胃液分泌抑制(H2 blocker)、抗生物質
l 腎不全対策:血液透析
l 呼吸管理:酸素吸入、人工呼吸
l 栄養対策:高カロリー輸液