T.概念
肝炎ウィルス、薬剤、アルコールなどの外来因子によって、急激な肝細胞障害(壊死)をきたし、食欲不振、悪心・嘔吐、黄疸、全身倦怠感などの臨床症状を呈する疾患。
U.発生機序
肝炎ウィルス自身に直接的な肝細胞障害性はなく、免疫学的な機序が関与していると推定されている。すなわち、感染細胞の細胞膜上にウィルスに特異的な抗原が表出され、これにNK細胞や細胞障害性T細胞(cytotoxic T cell)などの細胞性免疫が作用するためと考えられている。
V.病理
肝組織所見:肝実質炎として、@肝細胞壊死、spotty or focal necrosis、A肝細胞索の乱れ、B肝細胞および核の大小不同、C好酸体(Councilman body)の出現、DIto細胞の増生、EKupffer細胞の動員、F門脈域の浮腫状拡大、細胞浸潤、胆管増生など。
図. 正常肝(左)と急性肝炎(右)
W.診断
l A型肝炎:IgM・HA抗体
l B型肝炎:IgM・HBc抗体、HBs抗原
l C型肝炎:第2世代HCV抗体(急性期では50%の陽性率)、HCV-RNAの検出
X.症状
共通した症状:食欲不振、悪心・嘔吐、黄疸、全身倦怠感
A型肝炎:発熱、表在リンパ節腫脹や下痢、腹痛などの消化器症状
B型肝炎:免疫複合体による筋肉痛、関節痛、皮疹など
C型肝炎:症状は一般に軽く、認めないことも多い
Y.検査所見
白血球減少、リンパ球の相対的増加、異型リンパ球の出現
発症初期GOT>GPT、極期GOT<GPT、治癒期GOT>GPT、A型とB型急性肝炎ではトランスアミナーゼは1〜2峰性、しかしC型急性肝炎では多峰性となることが多い。A型急性肝炎ではIgMの上昇を反映してTTTが高値となる。
Z.経過と予後
l A型肝炎:自然に治癒し、予後は良好。
l B型肝炎:乳幼児以外では一過性感染で、予後は良好。慢性肝炎に移行することはない。(例外として、透析患者や免疫抑制剤を使用している患者など免疫機能に異常のある場合には稀に慢性化することがある。)
l C型肝炎:約60%の症例で慢性化し、20年で肝硬変、25〜30年で肝癌へと進展する。
[.合併症
l 肝炎後再生不良性貧血:頻度としてはC型が最も多いが、すべての急性ウィルス性肝炎で起こりうる。
l 腎障害:軽度の一過性蛋白尿、A型では腎不全に至ることもある。
l 皮疹:B型肝炎の初期に手足顔に皮疹を認めることがある(Gianotti病)。
\.予防
l A型肝炎:HA抗体を含むヒト免疫グロブリン、HAワクチン
l B型肝炎:HBs抗体を含むヒト免疫グロブリン(HBIG)、HBワクチン
付1)肝炎ウィルス以外のウィルスによる肝炎
いずれの場合も一過性感染で、経過は良好である。
l Epstein-Barr virus: リンパ節腫脹、脾腫、異型リンパ球の出現、Paul-Bunnell反応陽性
l Cytomegalovirus: 核内封入体の出現