03/11/26
■ アクネ菌の分離・同定の方法について
【質問】
 初めてメールをいたします。丁寧かつ時には厳しいご回答に感動いたしております。

 化粧品のモニター試験で, 頬の表面細菌のふき取り試験を行おうとしておりますが, この検体から“アクネ菌を分離する”ことはできるでしょうか??? 朝, 洗面をする前に, 滅菌生理食塩水に浸した滅菌綿棒で一定部位をふき取ったあと, この生食中でふり洗いをして平板培地にまき, 培養を行おうと思っております。嫌気培養を行うことも可能です。

 また, この方法以外で, 人の表皮から“アクネ菌を分離する最適の方法”をお教えいただけますでしょうか。発育したコロニーの中から, “アクネ菌と同定するための試験方法 (コロニー形状, 検鏡所見, 生化学試験法)”もお教えください。よろしくお願いいたします。

【回答】
 お答えします。

 アクネ菌を含む頬の表面細菌をこの方法で分離することは可能です。しかし, アクネ菌は皮脂腺の導管に生息する菌ですので, 拭き取り法により差がでるので注意して下さい。拭き取る場所によっても差がでます。アクネ菌は小鼻のような皮脂腺が密のところに多く存在します。とにかく, 拭き取る面積を決めて, 皮脂線の導管から絞り出すような気持ちでしっかり拭き取って下さい。アクネ菌は酸素に耐える性質をもっていますが, 一応嫌気性菌の仲間です。菌を浮遊させる液体は, 脱気した (酸素濃度が少ない) 生理食塩水を使うようにしたいものです。脱気とは沸騰水中で10分加熱する操作です。加熱後, すぐ冷却して, ブチルゴム栓で密栓して保存すれば1週間はもちます。アクネ菌は酸素が嫌いな菌です。したがって, 振り洗いという操作も嫌気性菌を扱う場合には勧められないことです。綿棒を管壁にやさしくこするようにして, 液面を泡だたせないように, 綿棒の菌を浮遊させて下さい。培地は血液寒天にしなくてもよいGAM寒天培地 (日水製薬) がお勧めです。ここでも酸素に注意です。例えば冷蔵庫の中でも, 空気中に24時間以上置いた平板培地はよくありません。培地中に侵入した空気中の酸素が嫌気性菌の増殖を妨害するからです。前日の午後に作った培地を朝, 使用するようにしましょう。脱酸素剤を利用した嫌気パウチ法は酸素の影響なく培地を保存できます。1週間程度はだいじょうぶです。定量培養するのでしょうか??? もしそうなら, 1平方cm当たりの菌数で表現します。数十から数百, 多くても一万個くらいでしょう。好気菌で普通に行う希釈操作も嫌気性菌にはストレスです。菌液を塗布したら, 15分以内に嫌気培養を終えるようにして下さい。培養時間は最低3日, 5日くらいがよいでしょう。培養時間が長い方がこの菌の特徴をつかみやすくなります。皮膚の表面の検査をする前に, 一度“にきびのコメド”でやってみて下さい。必ずアクネ菌が分離されるはずです。理想的には, 採取した材料をすばやく酸素のない環境に持ち込み, 酸素のない環境で, 上記のすべての操作をすることです。嫌気ワークステーション (200万円くらいから) を使えばいいのです。

 同定試験ですが, 小さな1〜2 mmのクリーム状 (白, 帯黄) の盛り上がった集落をグラム染色し, グラム陽性の桿菌であることを確かめます。カモメが飛んでいるような特徴的な配列, さく状の配列を見ることができれば強く疑われます。15% 過酸化水素水に集落の一部をつけると強く発泡します。カタラーゼ試験が陽性です。陽性ならばアクネ菌と仮同定してよいでしょう。ひとつの集落を二枚のGAM寒天培地に塗布して, 一つを嫌気培養, もう一方を好気培養します。嫌気培養で好気培養よりもはるかに旺盛な発育が見られることを確認すれば9割がた, アクネ菌でしょう。

(岐阜大学・渡邉 邦友)

【質問者からのお礼】
 ご丁寧な回答を頂きましてありがとうございました。教えていただいた方法を参考にして, ニキビからの分離培養を行ってみます。また分からないことがありましたら, 質問をさせていただこうと思います。よろしくお願いいたします。


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