02/06/14
Alicyclobacillusって, どんな細菌ですか???
【質問】
 Alicyclobacillus属菌の性質について教えてください。飲料業界では, “耐熱性好酸性菌”の名前で知られています。発育に関する最適pHや最適温度, 耐熱性の度合い, 検出用培地成分, 菌の形態など, 教えてください。よろしくお願いします。

【回答】
 早速お答えいたします。Alicyclobacillus 属は, もともとは Bacillus 属の新しい菌種として提案された何菌種かが, 16S rRNA の homology のデ−タから, Bacillus とは独立した属として新たに提案されたものです。

 1971年にBacillus acidocardarius (1)が, 1987年にBacillus acidoterrestris (2)が, また同じく1987年にBacillus cycloheptanicus (3)が, Bacillus 属の新菌種としてそれぞれ記載され, 1988年に International Journal of Systematic Bacteriology  の Validation List No. 25 (4) の中に搭載されて新菌種として認知されたのが最初です。その後, 新たに認知されたBacillus 属のこれら3菌種, 即ち B. acidocaldarius, B. acidoterrestris, B. cycloheptanicus について 16S rRNA の塩基配列の相互比較解析の成績から, 新しいAlicyclobacillus 属が提案されました(5)。

 飲料業界で知られているように, まさに「耐熱性好酸性菌」で, かなりユニ−クな性状をもっています。ご質問の発育条件ですが, 上記の3菌種は共通して以下のような性状を示すことが記載されております。つまり, 菌体サイズは 0.3〜0.8μm × 2.0〜4.5μm の, 芽胞をもつグラム陽性の桿菌で, その芽胞は1細胞当たり1個で, 卵円形を呈し, 通常は特殊な発育素 (Growth factor) を要求しない偏性好気性菌です。なお, Alicyclobacillus 属菌の最大の特徴は, 酸性環境で発育するということです。pH 2〜6 という環境下で良好な発育を示すという, 言わば「偏性酸性環境好性」とでも言うべきなのが Alicyclobacillus 属に属する菌種の特徴なのです。上記の3菌種の発育条件などがそれぞれ微妙に異なりますので, 以下に別々に記させていただきます。

 まずAlicyclobacillus acidocardarius ですが, 偏性好気性でやや短めの連鎖を形成するのが形態学的な特徴です。芽胞は細胞の端もしくは端寄りに位置し, 一般の芽胞と比較して易熱性といえます。つまり86℃, 10〜12分で半数の菌体 (有芽胞菌体を含む) が死滅することが知られています。pH 2〜6 で発育可能で, 45℃〜70℃で良好に増殖します。特別の栄養要求性はなく, 炭素源およびエネルギ−源としてglucose, glycerol や カザミノ酸を含有する培地なら特別の発育素 (Growth factor) を必要とせずに発育する。しかし, succinate, acetate, sorbitol や citrate, ethanol を唯一の炭素源とした培地には発育不能である。なお発育集落の周辺は不正円形の扁平で, 色素の産生はない。

 次いでAlicyclobacillus acidoterrestrisですが, 卵円形の端より〜端在性の芽胞をもつ偏性好気性菌です。発育至適環境の pH は4.0, 50℃で6日間培養すると直径が3〜5 mmの正円形, 白色クリ−ム状で透明感のある集落を形成します。なお発育可能 pH は2.2 〜 5.8で, 発育可能温度域は 35℃以上〜55℃以下であるが, 発育至適温度は 42℃〜53℃。特別の発育素 (Growth factor) を要求しないのは Bacillus acidocardarius と同様ですが, 5%食塩存在下では発育不能になることが知られています。Alicyclobacillus acidocardarius では固型培地でも短連鎖の形成が特徴的なのですが, Alicyclobacillus acidoterrestris では固型培地で連鎖の形成は見られず, 液体培地での培養で対数増殖期後期のみ短連鎖の形成が観察されることが形態学的特徴です。

 最後にAlicyclobacillus cycloheptanicus についてですが, 偏性好気性の桿菌で前述の2菌種と同様なのですが, 菌体のやや端寄りに幅 0.75μmで長さが1μmもある巨大卵円形芽胞をもつのが特徴的です。集落は小型正円形スム−ズな白色クリ−ム状で透明感があります。発育可能な pH 域は3.0〜5.5 とされていますが, 発育至適 pH は 3.5〜4.5 とされています。また発育可能温度域は40℃〜53℃とされていますが, 発育至適温度は48℃とされています。本菌種の最大の特徴は, 栄養要求性が知られていることです。つまり, メチオニン, ビタミンB12, パントテン酸およびイソロイシンの培地への添加を要求します。しかしアミノ酸やペプトンを含有する培地には発育しますので, 通常の培地で培養が可能です。

 以上, 3菌種をそれぞれに述べましたが, 特別の培地は必要なく, pH 4前後で, 50℃前後の温度条件で, 数日間好気培養すれば集落の発生を見ることができると思われます。
 詳細については, 下記の論文 (特に末尾の (5) の論文) を参照下さい。
[文 献]
(1) Darland, G., and T. Brock. 1971. Bacillusacidocardarius sp. nov., an acidophilic spore-forming bacterium. J. Gen. Microbiol. 67: 9〜15.
(2) Deinhard, G., P. Blanz, K. Poralla, and E. Alton. 1987. Bacillus acidoterrestris sp. nov., a new thermotolerant acidophile isolated from different soils. Syst. Appl. Microbiol. 10: 47〜53.
(3) Deinhard, G., J. Saar, W. Krischke, and K. Poralla. 1987. Bacillus cycloheptanicus sp. nov., a new thermoacidophile containing ω-cycloheptane fatty acids.  Syst. Appl. Microbiol. 10: 68〜73.
(4) Validation of the publication of new names and new combinations previously effectively published outside the IJSB, List No. 25. 1988. Int. J. Syst. Bacteriol. 38: 220〜223.
(5) Wisotzkey, J. W., Jurtshuk, P. Jr., Fox, G. E., Deinhard, G., and Poralla, K. 1992. Comparative sequence analyses on the 16S rRNA(rDNA)of Bacillus acidocardarius, Bacillus acidoterrestris, and Bacillus cycloheptanicus and proposal for creation of a new genus Alicyclobacillus gen. nov. Int. J. Syst. Bacteriol. 42: 263〜269.

(信州大学・川上 由行)

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