02/12/13
 
 
“Bacillus circulans” について教えてください
【質問】 
 熱に強いとされるBacillus属の仲間のB. circulansについて教えてください。生化学や微生物関連の本を読んでも, 詳しい特徴や性質などがわかりませんでした。汚染された場合の対処方法などあれば助かります。 
よろしくお願いします。 

【回答】 
 まず質問者が B. circulans のどんな性状や特徴をお知りになりたいのか判りません。そもそも何のためにお調べなのでしょうか??? 分離培養したいのでしょうか??? それとも分離株がB. circulansなのかを確認されるためでしょうか??? またはB. circulans を用いて何か実験をなさろうと計画されているのでしょうか??? だとしたら, それはどんな実験なのでしょうか??? 特徴といっても形態学的特徴なのか, 生化学的特徴なのか, もし生化学的特徴なら, 各種の糖の分解能・アミノ酸脱炭酸能をはじめとする代謝系の有無でしょうか??? あるいは, 種々の酵素系の活性に関することでしょうか??? 何が知りたいのか, 回答者には皆目判りませんので, お答えの仕様もありません。 

 なお, 質問者がご指摘されているように, 本菌種は有芽胞菌で耐熱性を示します。したがって, 汚染した場合の対処法ですが, これもどんな物件の消毒が目的なのかで異ると思います。 

 ちなみに, 金属器具・ガラス器具・陶器・プラスチック製品・ゴム製品・体温計・衣類・箸やスプ−ンなどの食器などでしたら, アルデヒド系消毒剤 (例えば, グルタ−ルアルデヒド: 2%溶液中に60分以上) が一般的かと思います。本菌種に起因する創傷感染・敗血症・壊死性創傷感染や菌血症・敗血症例のみならず髄膜炎の症例も報告されておりますので, 感染回避目的での手指などの皮膚消毒でしょうか??? 皮膚消毒に関してでしたら, アルデヒド系消毒剤はまったく使用できませんので, ビグアナイド系消毒薬 (例えば, グルコン酸クロ−ルヘキシジン) を原液で使用するしか方法はないと考えます。しかし, この方法での完全な消毒効果は期待できないことを認識しておくことが肝要でしょう。 

 いずれにしましても, 質問者は何の目的で, どんなことを知りたいのか, 明確にさせてからご質問下さるようにお願いいたします。 

(信州大学・川上 由行)
【再質問】 
 質問の目的が明確でなく, もうしわけありませんでした。再度ご質問します。 
 私は「きのこ」の研究をしています。栽培を行う過程の中で, きのこの菌糸が純粋培養されているか検査を行ったところ, “Bacillus circulans”と思われる菌が混入していました。 

 どのくらいの温度, 熱を与える時間に耐えられる菌なのか。普段はどこにいるのか。なにか特別な殺菌方法が必要なのか。他の“Bacillus属”とくらべるとどうなのか。など, 詳しい情報が知りたいのです。どの過程で混入したのか追求するための参考にできたらと考えています。 
 よろしくお願いします。 

【回答】 
 どのような経緯から“Bacillus circulans”と思われるに至ったのかが判りかねますが, まずは順を追って簡潔にお答えいたします。 

1. 棲息環境:“Bacillus circulans”の棲息環境ですが, 本菌種は土壌中にもその棲息が確認されていますが, 複雑な栄養要求性を有している本菌種は, 腐敗した植物から分離されたのが最初で, そもそも植物に寄生している (1) と考えられています。 

2. 耐熱性: Bacillus 属菌に代表される有芽胞菌は耐熱性を有していますが, その耐熱性の程度について, 個々の菌種での詳細なデータは回答者にも良く判りませんが, もし調べられていたとしても《菌種による差》よりも《菌株による差》の方が大きいのではないかと考えます。一般に,《100℃数分間の加熱で死滅せず, 121℃, 15〜20分で死滅する》ということかと思います。 

3. その他の情報: “Bacillus circulans”の病原性に関しては, 本菌種に起因する創傷感染・敗血症・壊死性創傷感染や菌血症・敗血症例のみならず, 髄膜炎の症例も稀ながら報告されておりますが, あくまでも極めて稀です。一般に, ヒトの感染症起因菌としての重要性が確立されている Bacillus 属菌は, B.  anthracis (炭疽菌), B. cereus (セレウス菌) くらいで, 臨床微生物学領域におけるそれ以外のBacillus 属菌の病原性についてはほとんど問題視されてきていないといって良いと考えます。つまりは, 非病原性の雑菌扱いの範疇になるのでしょうか? 特に, 本菌種の芽胞の耐熱性から, 恐らくは土壌および植物に付着していた“Bacillus circulans”が, 100℃数分間の加熱で死滅せずに混入したのでしょう。 

(1) Priest, F. G. 1989. Isolation and identification of aerobic endospore-forming bacteria, Bacillus.  Biotechnology Handbooks, vol. 2, ed. Harwood, C. R., Plenum Press, New York, 27-56. 

(信州大学・川上 由行)
 


 
[戻る]