03/10/17
■ 培地に関する3つの質問
【質問】
 検査センターで細菌検査をしているものです。4月から細菌検査室で検査をしており, まだまだ勉強不足で分からないので質問させていただきたいのですが・・・。

(1) 液卵の規格で, L-システインを加えた緩衝ペプトン水を使用するのは何故でしょうか??? L-システインはどういう意味があるのでしょうか???

(2) マンニットやNGKGの培地を作る時に卵黄液をいれますが, 卵黄液作製時に白身や黄身の皮をいれたらいけないのはどうしてでしょうか???

(3) ビブリオは, 食塩ポリミキシンブイヨンでどういう風に増菌されるのでしょうか??? また増菌後, 増菌液の上澄みにビブリオが存在するのは何故でしょうか???

 よろしくお願い致します。

【回答】
(1) L-システインを加えた緩衝ペプトン水については, 厚生省生活衛生局長より都道府県知事などにだされた平成10年11月25日付け「食品衛生法施行規則及び食品, 添加物等の規格基準の一部改正について」のなかの「鶏の液卵の規格基準」におけるサルモネラ属菌試験法に含まれています。さらに詳しくは, 無菌的に採取した液卵検体の前培養に使用するBPW培地(Buffered Peptone Water)にL-システイン (または硫酸第1鉄7水和物) が含まれています。サルモネラ属の前培養にBPWを用いることは国際法 (ISO) にも含まれていますが, L-システイン (または硫酸第1鉄7水和物) の添加は日本独自の方法のようです。

 システイン添加の理由としては, 用いるペプトンの材料に由来することが考えられます。ペプトンは, カゼイン, 肉, 大豆, ゼラチンなどを原料として作られますが, 原料の違いにより, ペプトンを構成するアミノ酸の量および構成比が異なり, 栄養的にも異なってきます。例えばゼラチンを消化したゼラチン・ペプトンはシステイン, トリプトファンに乏しく, 栄養要求の厳しい菌の発育には不適と言われています。またサルモネラはそれほど栄養要求性が高い菌ではありませんが, イオウ源としてシステインなどを要求する株があることが知られています。液卵中ではVNC (Viable but nonculturable cell: 生きているが培養 できない) の状態も考えられるので, 発育促進という目的からシステインを加えたと考えられます。ペプトンの種類によっては, システイン添加の効果をペプトンのみで既にもつことも考えられますが, 上記の理由により添加されたと推定しています。(2) 卵白はそのもののpHが9_9.4とアルカリ性であることに加え, リゾチームという溶菌性の酵素を含んでおり, 菌の増殖抑制作用があります。このように卵白そのものに菌の増殖を押さえる作用がありますので, 極力卵白を入れないようにする必要があります。

(3) 食塩ポリミキシン・ブイヨンは, 高濃度の食塩とポリミキシンによる選択増菌性を持っており, ビブリオ以外の菌種は高塩濃度とポリミキシン25万単位によってその発育が抑制されます。ビブリオ属菌種は発育に0.5%以上の食塩濃度が必要 (コレラ菌など数菌種は食塩不含でも発育可能) で, 高濃度の食塩およびポリミキシン存在化でも発育します。ポリミキシンには比較的耐性であるため25万単位でも発育しますが, さらにそれ以上の高濃度のポリミキシンには抑制されます。

 増菌後, 増菌液の上澄にビブリオが存在するのはなぜかと言うことですが, 一般にブイヨンで培養をすると, はじめはブイヨン中に浮遊して増殖しますが, 増殖が進むと菌体が凝集してブイヨンの底に沈積してきます。ブイヨンの上方は澄んで, 菌がいないように思われますが, 目視的に濁度が確認できる菌数はおよそ10^8 cfu/ml以上ですから, 無菌ではなく10^8 cfu/ml未満の菌が浮遊していることになります。ビブリオのように運動性のある菌種はさらに活発に運動していますので, 増菌培地の上方からもビブリオが分離されます。実際の検査では増菌後の培地からエーゼやボルテックス・ミキサーなどで軽く全体を撹拌し, 次の検査に用います。

(日水製薬・三品 正俊)

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