03/04/22
■ TCBS寒天培地に発育したチトクローム陽性菌
【質問】
胆管炎の患者から提出された胆汁培養です。胆汁培養の時はBTB寒天培地と血液寒天培地を使用して培養していますが, 18時間培養後, BTB寒天培地上に青色コロニーと血液寒天培地には溶血の大きなコロニーが検出されました。チトクローム陽性の菌で, Aeromonas (???) と疑い, 同定検査および薬剤感受性試験を行いました。同定結果はVibrio choleraeという結果でした。TCBS寒天培地に再分離をしたところ黄色の大きなコロニーが検出されました。当細菌室にはコレラの抗血清を置いておりませんので近くの保健所でO-1血清だけあたってもらったところ“陰性”という返事でした。この菌はVibrio cholerae non O-1と報告しましたが良いでしょうか??? Aeromonas はTCBS寒天培地に発育しますか??? ちなみに薬剤感受性試験でアンピシリン感受性です。よろしくお願いします。

【回答】
 Aeromonas 属は胆汁材料から比較的多く検出されますので, 今回検出されたβ溶血性でオキシダーゼ陽性株をAeromonas と最初に疑うことは正しいと思います。しかし同定検査に若干不備があると思いますので以下を参考にしてみて下さい。

(1) V. cholerae と同定された菌株について
 ご質問には同定方法が記載されておりませんので不明ですが, 現在市販されている同定機器および同定キットの種類によってはVibrio 属の同定において菌液調整にNaClの添加が必要な場合があります。従来法で同定試験を実施する場合にも培地に1% NaClを添加して試験します。いずれの同定方法でもNaClの添加をしないと誤った同定結果を招く恐れがあります。

(2) TCBS寒天培地で黄色い大きな菌集落
 菌集落の大きさのみで菌種を推定するのは危険ですが, ご質問で記載されている大きな菌集落から推定した場合にはV. choleraeはTCBS寒天培地で大きな菌集落を形成しませんので“誤同定”ではないかと推察されます。大きなムコイド様菌集落を形成し, 臨床材料から比較的多く検出される菌種はV. alginolyticus があります。他にTCBS寒天培地で黄色い集落を形成する菌種としてはV. carchariae, V. cincinnatiensis, V. fluvialis, V. furnissiiなどがあります。

(3) Aeromonas のTCBS寒天培地での発育性
 通常Aeromonas 属はTCBS寒天培地に発育しません。しかし市販のTCBS寒天培地の選択性はメーカーまたはロットによって異なりますので既知の菌株で確認する必要があります。Aeromonas spp Vibrio sppを最初に鑑別する試験としてもTCBS寒天培地での発育性, O129 (10および150 μg) に対する感受性試験, NaCl 要求試験が最も重要です。

(4) O1血清で凝集しない
 最終的に生化学性状がV. choleraeと確認され, O1血清に凝集しない場合にはnon-O1 V. choleraeと報告してよいと思いますが, 今回は性状試験の追加が必要と思います。また今回の臨床材料に由来するものではありませんが, 下痢症から臨床的にV. cholerae O1と同じ症状を呈するV. cholerae O139も最近話題となっています。

 最後に, これらの重要な菌種が検出された場合には, 同定機器や簡易同定キットのみで判定せず, 従来法で特徴的な性状確認を実施する必要が絶対にあると思います。

(琉球大学・仲宗根 勇)

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