■ 腸内細菌属では何故, TSI培地の斜面部のみの色が違う | |
【質問】
今, 学校で腸内細菌属について学んでいます。そこで質問なんですが, TSI培地ではブドウ糖の発酵を見ることが出来ます。斜面部の培地の変色でそれを見極めることが出来るのは学校で学びましたが, どうして斜面部のみ培地の色が変化するのでしょうか??? 培地全体は同じ成分で出来ているはずなので, 私は斜面部のみだけでなく, 高層部の色も変わらないことに疑問を感じてメールをしました。一応私の予想の範囲では, 酸素が関係してるのでは・・・???と思っているところです。微生物学についてあまり知識がないもので, このような質問をお許しください。ぜひお答えを下さい。待っています。 【回答】
ブドウ糖のみを発酵すると高層部のみ黄色で, 斜面部は赤色。乳糖あるいは白糖, その両方を発酵すると斜面部も高層部も, 全体が黄色になります。TSI培地は, ブドウ糖, 乳糖, 白糖の3つの糖を含む培地で, Triple Sugar (3つの糖) Ironの略です。培地全体が同一の成分なのに, 高層部と斜面部で“別々の糖発酵が観察できるのか”という質問と理解しますが, その理由は培地に含まれているそれぞれの糖の濃度の違いにあります。TSI培地にはブドウ糖が0.1%, 乳糖と白糖がそれぞれ1%ずつ, pH指示薬としてフェノール赤 (酸性で黄色) が含まれています。ブドウ糖が乳糖や白糖と比べ1/10量しか含まれていないことに注目してください。 試験する細菌を高層部に穿刺, 斜面部に塗抹培養すると, まず乳糖あるいは白糖, その両方を発酵する場合には, それぞれの糖の濃度が1%と高いため, 1夜培養 (18時間) した後でも消費され尽くされないため, 培地全体が酸性 (黄色) になります。他方, ブドウ糖を発酵し, 乳糖と白糖を発酵しない場合にも, 培養の早い時期 (培養12時間以前) ではブドウ糖を分解して培地全体が黄色になっています。さらに培養を継続して, 培養18時間程度に達すると, 培地に含まれるブドウ糖はすべて消費されてなくなり, 菌の発育に窒素を含む“ペプトン”が利用されるようになります。ペプトンが分解されると“アンモニア”が作られ, このアンモニアが培地の斜面部をアルカリ (赤色) にする訳です。しかし高層部ではブドウ糖がゆっくり, 嫌気的に分解されて酸性のままなので, 黄色になります。ただ, 高層部でも, さらに培養を続けて48時間以上経過するとペプトンが分解されるようになり, アルカリ (赤色) に変化していきます。培地の色の変化を徹夜で, 18時間続けて観察すると, その変化が分かる筈です。 培地に含まれる成分や培地の原理が理解できると細菌学はもっと面白くなると思います。 (琉球大学・仲宗根 勇)
【質問者からのお礼】
|