04/02/27
■ ビフィズス菌がうまく分離できません
【質問】
 鶏の盲腸便よりビフィズス菌の分離を試みていますが, どうしてもわかりません。検体を滅菌生理食塩水で段階希釈した後, 10^4〜10^6の希釈試料をBL血液寒天培地に接種し, ガスパックによる嫌気培養をしていますが, コロニーそのものの発育状態がよくわかりません。ラクトバチルス様の形態を示すものばかりで, 再度培養すると好気発育します。同時に培養しているラクトバチルスはロゴサ寒天上によく発育します。やはりBS寒天培地でないとわかりにくいのでしょうか。

 市販のビフィズス菌入りのヨーグルトで鏡検, 培養をしてみましたが, ストレプトコッカスとラクトバチルス (これも含まれているとのこと) 様のものが見えるだけで, BL血液寒天培地上での発育コロニーはストレプトコッカスのみです。

【回答】
 ビフィズス菌とは, Bifidobacterium属に含まれるすべての菌種という意味で使われ

る俗名でもあり, またBifidobacterium bifidumというひとつの菌種を示す俗名でもあります。前者と判断して話しを進めます。

 重要な点は, Bifidobacteriumは偏性嫌気性菌であり, これに対してLactobacillusはほとんどが通性 (嫌気性) 菌であるということです。Bifidobacterumを分離するためには, 嫌気性菌と嫌気培養法に関する知識が一定の水準に達して修得している必要がありますが, 質問の内容から, 嫌気性菌を培養した経験が浅いと判断されます。先ず, 次の点を注意して下さい。

(1) 検体は新鮮なものを使ってください。いつ排便したかわからないものはだめです。滅菌生理食塩水での便の希釈は, 希釈の過程で大気中の酸素に暴露し, 嫌気性菌 (Bifidobacteriumなど) が1/100〜1/1000に減少している可能性が最も強いと考えられます。この場合, 通性菌のLactobacillusStreptococcus には菌数の減少はありません。

(2) 偏性嫌気性菌を希釈するため, 通称, 嫌気性希釈液 (少量の寒天, 還元剤などを加えた特別の希釈液の処方) がありますので, それを使用して下さい。操作中も酸素ができるだけ入らないように注意して行うべきです。しっかりしたデータを出すつもりでしたら, ガス噴射法やケンキグローブボックス法など, 嫌気性環境下で希釈 (酸素の暴露のない状態での希釈) をするような環境を準備して下さい。

(3) 次に, 培地はBLでも結構ですが, 血液寒天培地として下さい。また作製して1〜2夜, ガスパックジャーに入れて, 培地表面を十分に還元してから使って下さい。ジャーを開いてとり出した還元されたBL血液寒天培地の培地表面は, 空気に触れるとどんどん酸化されていきますので, 血液寒天培地が茶から赤くなりきってしまわない内に、遅くとも15分間以内に検体希釈液の塗抹接種を終了し, 再びガスパックジャーに嫌気的に納めて下さい。BS培地はBifidobacteriumの選択培地で, BL血液寒天培地は非選択培地です。BL血液寒天培地で, 嫌気性グラム陰性桿菌, 通性 (耐気性) 球菌 (ストレプトコッカス) が多過ぎて, Bifidobacteriumが検出できない場合にはBS培地を使う必要があるかもしれません。小生, 鶏の経験はないのですが, BL血液寒天培地でもBifidobacteriumは分離できると思います。3〜5日と, 少し長めの培養がいいでしょう。

(4) 観察ですが, Bifidobacteriumの多くは, この培地で茶〜濃い茶色の円形の隆起した直径1 mm以上の集落をつくるはずです。Bifidobacterium bifidumは小さい集落です。このBifidobacteriumのグラム染色所見は, ストレートのものもあり, いつも二叉とは限りませんので注意して下さい。

 貴方の場合, 嫌気性菌と酸素の関係を少し甘くみている可能性があります。注意してやってみて下さい。だめなら, 適切な研修を受けて下さい。岐阜大学でも年に1度実習を含むセミナーが行われています。

(岐阜大学・渡邉 邦友)
【質問者からのお礼】

 回答の送付をいただきまして, ありがとうございました。回答をいただいた先生には, 初心者の私に, 丁寧かつとても詳しい説明をいただき, お礼申し上げます。検体の採取は排便後, 30分以内にしておりますが, 少なからず, その後の検体希釈過程・操作方法に大きな問題があることがわかりました。ご指導, ありがとうございました。


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