04/03/15
■ 微生物検査の精密度が理解できない!!!
【質問】
 検査センターに勤務しております。3年前に化学系の部署から細菌検査室に配属になりました。いまだに微生物検査の精密度を理解できないでおります。

 薬剤感受性試験 (希釈法) を行う際, 薬剤の秤量は○○.○ mgまで量りますが, 溶解時はメスフラスコを使用せずに普通のピペットで分量の滅菌蒸留水 (エタノールなどを加えて溶かす時はその量を滅菌蒸留水の量から引きます) を加えて溶かします。また, 2段階希釈時もピペットで希釈していきますが, ピペット誤差などで薬品が正確に希釈されているのか, 不安です。感受性培地と希釈した薬剤を混合する際に, 共洗いはしなくても大丈夫なのでしょうか??? このような理由から, 誤差が出て, 結果にも影響してしまわないかと心配です。また, 薬剤を秤量する際, 滅菌した秤量瓶やスパーテルを使用しますが, 普通の薬包紙を使用するのは細菌学上良くないことなのでしょうか??? 溶解に使用するエタノールや1NのNaOHは無滅菌のものを使用しています。何か矛盾があるような気がします。以前から気になっていたことですので, お答え頂ければ幸いです。

【回答】
 大変, 耳に痛い質問です。確かに細菌検査室は, 生化学検査室と比べると, アバウト (about) な世界です。100倍希釈する時など, 平気で10 mlの希釈液に0.1 mlの原液を加えて調製することがしばしばあります。しかしそれには理由があります。

 御質問の希釈法での薬剤感受性試験を考えてみましょう。まずこの試験は, 所詮, 2倍希釈系列での終末点法です。±1管 (1/2〜2倍) の誤差を許容する試験です。次に, 薬剤溶液を調製する時を考えてみましょう。本当は1 L (リットル) の蒸留水に溶かさなければいけないのを間違って1.5 Lに溶解しても得られる薬剤感受性試験の結果は同じです。逆に, 溶かし込む薬剤には正確さが求められます。1 Lと1.5 Lの誤差は10 mgと15 mgの誤差と同等の影響をもつ訳ですから。その意味では, 細菌検査室のスタッフは“どうでもよい部分”と“正確にしなければいけない部分”を心得ているということになります。

 質問された「薬剤を秤量する方法」が私にはちと理解できません。私のところでは, まず滅菌スピッツ管をバランスの上に置いて0 (ゼロ) あわせをします。次に適当量の薬剤 (必要最小限量) をスピッツに入れて, その時の重量を正確に測定します。次いで, その重量から必要な溶解液の液量を計算し, その液量で溶解します。粉末の10 mgを正確に採取するよりも, 正確に10 mlの溶解液を採取するほうが簡単だし, 正確だからです。

 また, 溶解に用いる比較的高い濃度のエタノールやNaOH溶液, DMSO溶液などは無菌とみなしています。

 もうひとつ指摘しますと, 2倍希釈系列の作成では一本の同じピペットで連続して操作しますが, 10倍希釈ではその都度, 新しいピペットに交換するというのが, 臨床検査での常識です。2倍希釈でのピペット誤差も気にされていますが, 先に書いた理由と同様, 0.5 mlを次の試験管に移すべきところ, 0.4 ml (80%量) しか移さなかったとしても, 得られる結果は同じでしょう。

 理解していただきたいのは, 試験方法のもつ限界を知り, 発生する誤差の軽重を知ったうえで, 限りあるエネルギーと時間を有効に使ってください。

(琉球大学・山根 誠久)

【質問者からのお礼】
 以前から気になっていた質問にお答え頂きましてありがとうございました。すべてにおいて正確性だけを求めるのではなく, 正確に行わなければならないところと, それほど気にしなくても良いところを考えて, 今行っていることの意味を理解しながら検査していこうと思います。また, 薬剤の溶解も教えて頂いた方法で行ってみたいと思います。ありがとうございました。


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