03/01/20
■ 膀胱洗浄を行わない理由は???
【質問】
 療養型医療施設に勤務の看護師です。留置カテーテル患者の膀胱洗浄は現在行われていない所が常識ですが, 私のところでは日常的に行われています。先生に中止の意向を話すと根拠がないと止めれないと言われました。何か参考資料がありましたら教えて頂きたいです。

【回答】
 手元にある国立大学医学部附属病院感染対策協議会の「病院感染対策ガイドライン (平成14年2月)」 では“前立腺や膀胱の術後の出血などで閉塞が予想される場合を除いて,日常的な膀胱洗浄は行わない (A1)”とされています。カッコ内のA1のうちAは“強く推奨する”,1は“最低一つの無作為比較試験やメタアナリシスによる実証がされている”という意味なので,A1はその推奨度および根拠ともに最も高いということです。

“日常的な膀胱洗浄は行わない”根拠になった無作為比較試験が掲載されている文献をインターネットで調べました。

論文題名: Once-daily irrigation of long-term urethral catheters with normal saline. Lack of benefit. Arch Intern Med (1989 ) 149 (2): 441〜443.
アメリカのメリーランド大学から出ており,その要旨を訳してみると次のようになります。

論文題名: 長期間尿道留置カテーテルの1日1回の生食による洗浄は得るところがない。著者: Muncie HL, 他(1989年発表)

尿失禁は他の方法でうまくいかなければ,しばしば長期間の尿道カテーテル留置で管理される。長期間の尿道カテーテル留置は細菌尿,閉塞,発熱,菌血症,結石,死亡の原因となる。これまで定期的なカテーテル洗浄が行われてきたが,閉塞,発熱,菌血症を防ぐことができるか評価されてこなかった。これを評価するために,私たちは長期間の尿道カテーテル留置で管理されている32名の女性で10週間にわたる1日1回の生食による洗浄を行う場合とそれを行わない場合の無作為比較のクロスオーバー試験を行った。23名ではクロスオーバー試験が完全に行われ,9名では部分的に行われた。その結果, いずれの場合でも閉塞,発熱の頻度,細菌尿の頻度とその菌種に差はなかった。長期間尿道留置カテーテルの1日1回の生食による洗浄は,時間と費用を要するが,カテーテル関連合併症に与える影響はないようだ。

別の資料 (院内感染対策テキスト改訂4版 編集 日本感染症学会,編集協力 厚生省 へるす出版) では“膀胱洗浄は閉鎖式に行う”と記載されていますが,どのような場合に膀胱洗浄を行うかは,記載されていません。参考までに,先の国立大学医学部附属病院感染対策協議会の病院感染対策ガイドラインでは次の4項目が追加されています。

(1) カテーテルの閉塞予防を目的とする場合には,閉鎖系を維持できる持続的潅流・膀胱洗浄を行う(AIII)。

(2) 頻回の膀胱洗浄を必要とするほどカテーテルが閉塞している場合には,カテーテルを交換する(AIII)。

(3) 膀胱洗浄は無菌手技で行い,洗浄液は滅菌した生理食塩水を用いる(AIII)。
(4) 抗菌薬や消毒薬を用いた膀胱洗浄は,日常的な感染予防策としては行わない(AI)。

 なお,IIIとは“症例集積研究や専門家の意見”を, Aは“強く推奨する”をそれぞれ意味します。

(琉球大学・久田 友治)

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