04/03/15
04/03/23
■ 病原性大腸菌の検査について
【質問】
 はじめまして。いつも勉強させて頂いております。私は検査センターの微生物検査室で働いている者です。主に食品従事者のサルモネラ (チフス, パラチフス), シゲラおよびO157の健康保菌者検査と, 人間ドックからの帰国時検診などの検査, クリニックからの症状のある人からの検査の3種類の糞便検査を行なっております。今回は, “人間ドックからのまったく症状のない方”の検査について伺いたいと思います。

 オーダーは「腸管系病原菌」とありますので, SS寒天, DHL寒天, 増菌培地のラパポート, プレストン, アルカリ性ペプトンを用いて, それぞれサルモネラ, シゲラ, カンピロバクター, ビブリオの検査を行います。病原性大腸菌の検索には, SS平板とDHL平板から, 大腸菌と思われるコロニーをTSI, LIM, VP, UREA, シモンズのクエン酸, クリステンゼンのクエン酸培地に接種し, 大腸菌と思われるものに関しては血清型の検査を行っています。ここで疑問なのですが, SSおよびDHL平板に純培養 (80%位???) に発育したものは病原性大腸菌の検査をする必要があると思いますが, 菌数も少なく, 純培養状でもない平板の病原大腸菌の検査をする必要があるのでしょうか??? このような平板は何もせずに「既知病原菌を認めず」としてはいけないでしょうか??? ベロ毒素産生O157のように, 症状, 菌数とは関係なしに報告の義務のあるものもあるので迷ってしまいます。また, 純培養状というのは何%位までを言うのでしょうか??? 宜しくお願い致します。

【回答】
 病原性大腸菌の検出を目的とするならば, 選択性の弱いマッコンキー寒天培地かBTB乳糖加寒天培地, CT/SMACなどの併用をお奨めします。SS培地やDHL培地はサルモネラとシゲラの分離が主目的ですので, 培地中に大腸菌を抑制する成分が含

まれているため, 集落形成をしないことがあります。腸管には大腸菌が多数常在していますので, 使用する選択性および非選択性分離培地によっては, 全面に集落を形成したり, 少数部分であったりしますので, 発育状態から病原性大腸菌の鑑別は不可能であり, 大腸菌と思われるものはすべて同定検査を進める必要があります。そして, その結果を報告します。

 また, 純培養状というのは, 一種類の菌のみが全面に発育してきた場合に使用しています。

 (愛媛大学・宮本 仁志)


【お礼と追加質問】
 ご返答ありがとうございました。以後, 病原性大腸菌の検査には非選択培地も追加して行いたいと思います。

 追加質問ですが, 健康診断などで“まったく症状のない人の検査”はどの程度まで行なえばよいのでしょうか??? 症状のある人と同じにすすめていく必要はないとも思うのですが, もし病原性大腸菌が見つかった場合, 報告はどのようにすればよいのでしょうか??? 病原性大腸菌も常在菌として存在することを聞いたことがあるような気がします。健康保菌者検索としてやO157は報告していますが・・・。ご回答, 宜しくお願い致します。

【回答】
 人間ドッグからのまったく症状のない人を対象とした場合は, 病原性大腸菌はO157 (EHEC) の検査だけで良いと思います。抗血清による凝集検査だけでは病原性大腸菌 (EPEC) の決定にはなりませんので, 仮に凝集があったとしても下痢の症状がない以上, 常在性の非病原性大腸菌と考えて問題ないと思われます。

(愛媛大学・宮本 仁志)
【質問者からのお礼】
 ご返答ありがとうございました。疑問に思っていたことが解決する度に, 自信を持って検査を行うことができるようになります。今後ともご指導のほど宜しくお願い申し上げます。
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