02/07/08
■ カテーテルから採取した血液培養
【質問】
 いつも丁寧に教えてくださりありがとうございます。
 何度も質問して申し訳ないのですが, この度, 栄養サポートチームからIVH感染が疑われた場合, 抗生物質投与の有無によらず, カテから20 mlの血液を採取し10 mlずつ, 血液培養ボトルにいれるよう指示がありました。血液培養ボトルはbioMerieux社のヘモリンパフォーマンスディファジック (100 ml) です。
 1. CDCのカテーテル関連血流感染の定義では, ”血液培養で”としかなく, それはカテーテルから採取したものとか, 末梢血管から採取されたものとは書いてありませんが, 今まで私は末梢血管から採取した血液培養とカテ先の菌の一致が必要と思っていました。カテからの血液の採取でいいのでしょうか?
 2. 何日も経過したカテから20 mlを採取するのは大変なのですが, 感度は血液量が多いほどよくなるのでしょうか? (メーカーの推奨は5〜10 mlです)
 3. 中には抗生物質の中和剤 (SPS)が入っているので抗生物質投与中でも10 mlが必要とのことですが, 中和剤はほぼ信頼できるものでしょうか?

【回答】
 栄養支援チーム (Nutrition Support Team: NST) は職種を超えたメンバー構成により患者の栄養管理を行う新しい試みであり, 各種医療機関で徐々に実行されております。実際には中心静脈栄養法 (Intravenous hyperalimentation: IVH), 完全静脈栄養法 (Total parental nutrition: TPN), 経腸栄養法 (Enteral nutrition: EN) などのカテーテル感染の改善や合併症の予防, 在院日数の短縮, 医療費の軽減を目的としており, 微生物検査技師の役割は主に細菌・真菌感染症の検索になります。
 さてご質問の血液培養に関する問題ですが;

1. カテーテル採血について
血管内留置カテーテル関連感染症の定義では,(1) 菌のカテーテル定着,(2) カテーテル関連局所感染, (3) 全身感染の3つのカテゴリーに分けられますが, カテーテル採取血液からの検出菌が局所感染なのか全身感染なのかは決定できません。故に, できればカテーテル採血と経皮採血の両方を行い, 検査することが大切です。ただし, カテーテル採取血液からの菌種がStaphylococcus epidermidisなど皮膚常在菌の場合はカテーテル関連感染症を高率に推察することもできます。

2. 培養時の採血量について
血液培養では, 血液量が多ければ多いほど検出感度が上がるとは限りません。通常,血液培養ボトルには推奨採血量が記載されており, その範囲内であれば血液量が多い (今回のご質問であれば10 ml)ほど感度は良くなりますが, 上限を越えますと逆に感度が下がってしまいます。これは血液中に含まれる抗菌活性物質を中和する薬物が所定の血液量以上になると中和しきれなくなり,菌の発育に影響するからです。なお,検出感度を上げるには,検査回数を増やすか,投与抗菌薬の血中濃度が最も低い時期や熱が上がりかけた時期に採取するなどの工夫が推奨されています。

3. 中和剤の信頼度について
我が国では多くの場合, 血液培養施行前に抗菌薬投与がなされています。したがって,菌検出においては血液培養ボトル内に混入した抗菌薬の除去が重要な課題となります。血液培養ボトルの培地そのもので希釈する (通常血液量の10倍〜20倍)だけでも抗菌薬作用を軽減できますが, 一般にはSPS (Sodium polyanethol sulfonate) 入り培養ボトルが利用されています。しかし, SPSは対象となる薬剤がアミノグリコシド系薬剤に限られていますので,すべての薬剤に対して効果が期待できる訳ではありません。また, レズンや活性炭などの吸着剤を使用する方法もあり, 特にレズンの抗菌薬除去効果については,基礎的および臨床的検討において有用性を認めた多くの報告があります。

(天理よろづ相談所病院・島川 宏一)

[戻る]