03/05/08
■ CDチェック陰性の偽膜性腸炎
【質問】
 突然の質問ですみません。消化器科の医師をしていますが, 最近過敏性大腸炎で経過観察していた患者が, 下痢, 粘血便を主訴に受診しました。昨年8月に大腸内視鏡を施行しており, 器質的疾患はないと考えておりましたが, その直前に開業医において急性胃腸炎と診断され, 抗生物質を投与されていたため, CDチェックを行ったところ「陰性」でした。翌日, グリセリン浣腸の後, S状結腸内視鏡を行ったところ, 偽膜性腸炎の所見でした。再度, CDチェックを調べましたが「陰性」でした。内視鏡所見から, 塩酸バンコマイシンを投与したところ, 症状は2日後には改善し, 1週間後の内視鏡でも, 粘膜所見も改善していました。ちなみに入院時に施行した便培養は陰性でした。

 CDチェック陰性の偽膜性腸炎はあってもよいのでしょうか。御教授いただけると幸いです。よろしくお願いいたします。

【回答】
(1)“偽膜性大腸炎”は病理学的診断名で, 内視鏡検査あるいは病理解剖の際に偽膜形成が認められれば, 偽膜性大腸炎と診断されます。偽膜が認められれば, Clostridium difficileの細菌学的検査をしなくても, ほぼ100% C. difficile関連腸炎であるといわれています。ご質問の症例は, 内視鏡検査時に採取した腸管粘膜組織の病理組織検査の結果が偽膜性大腸炎であれば, ほぼC. difficile関連腸炎であったと考えられます。反対に偽膜形成が認められないC. difficile関連腸炎は多く, 偽膜が認められないからといってC. difficile関連腸炎を否定できません。

(2) CDチェックは, C. difficileの産生するグルタメートデヒドロゲナーゼという酵素を検出している検査で, C. difficileの産生する毒素を検出しているわけではないので, 現在ではCDチェックを使用せずに「toxin A検出キット」による糞便検体中のtoxin A検出を行う検査室が多いと思います。ご質問の症例でなぜCDチェックが陰性であったのかはわかりませんが, CDチェックの結果を, “gold standard”とされています細胞培養による糞便中のtoxin B検出と比較しますと, CDチェックの感度はやや低いので, 偽陰性例は珍しくありません。もちろん, CDチェックはtoxin A陰性, toxin B陰性のC. difficileも検出するので偽陽性例は多くなります。

(3) 本症例では, “入院時に施行した便培養は陰性であった”とされていますが, “C. difficileの培養”を検査室に依頼したのか, 検査室はその依頼を受けてアルコール処理などの芽胞選択を行い, 選択培地を使用し, 嫌気培養を行ったのか否かをご確認ください。C. difficileは院内感染の原因菌としても重要です。院内感染が疑われた場合の調査にも菌株が必要となりますので, できれば菌の培養を行って下さい。

(国立感染研・加藤 はる)

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