|
【質問】
細菌検査室で嫌気培養を担当しているのですが, ここ最近, 産婦人科の方から膣の嫌気培養で属名まで同定の依頼があるんですけど・・・
乳酸桿菌と嫌気性菌のバランスを見たいという事で。流産との関連で嫌気性菌の量が大切らしくて最近検体数が多いんです。今いち嫌気の同定法がわからなくて,
同定キットの結果もいまいち信用していいのか自信がないんです。培地は, CDCの血寒とBBE培地,
変法FM培地をつかってます。すごくたくさん生えてきてどこまでやればいいのかわかりません。嫌気性菌の簡単な同定法ってないですか?教えてください。
【回答】
ご指摘の通り, 最近, 細菌感染症と流産・早産との関係が広く認識されるようになり,
特に, 嫌気性菌については, その重要性が指摘されています。邦文では, 臨床的意義については,
三鴨廣繁: Preterm labor, preterm PROMにおける病原微生物, 特に嫌気性菌の意義に関する研究. 日産婦誌
1998; 50 (8): 556〜568. に, 検査法については, 中村敏彦他: 妊婦腟分泌物の直接塗抹標本の解析と腟内細菌叢の比較.
日臨誌 1998; 8 (1): 9〜15がありますので参考にして下さい。
さて, ご質問の件ですが, 培地の選択については, 現在使用されている培地で十分と思います。なお,
同定に関しては, 研究レベルでない限り, 詳細な菌種の同定は不要と思います。大変な仕事量になりますので。培養・同定を依頼してくる医師にそのあたりを説明して,
よく打ち合わせをして貴方の検査室としての培養検査の範囲を決めるようにして下さい。嫌気性菌の簡単な同定法については,
市販のキットを使用することができるなら, その方法が一番簡単な方法といえます。しかし,
ご指摘のとおり, 確実性に疑問のある菌種もありますので, キットの限界について臨床医に伝えておいて下さい。例えば,
先程紹介した文献に現れている菌種 (Prevotella biviaなど) は分離頻度が高い上,
キットでの同定確率も高いので, それらを目標に菌種レベルで同定し, それ以外は無理に種まで同定せず,
属レベルの同定にとどめておくことも一法です。また, 先に紹介した中村らの研究は,
まさに腟分泌物の培養依頼が多くなった対策として行われたものです。塗抹のグラム染色標本からNugent
scoreを求め, その培養結果と比較しています。スコアーの程度により嫌気性菌の存在が予想できるので,
スコアーの高いもののみ嫌気性培養をするというアプローチをとることも考えてよいと思います。是非参考にして下さい。嫌気性菌の培養・同定については,
毎年夏に, 岐阜大学医学部附属嫌気性菌実験施設で開催されるセミナー(5日間)を受講され,
そのような患者から分離される嫌気性菌の幾つかを実際に見ておくことをお勧めします。
(岐阜大学・三鴨廣繁)
|