04/02/17
04/02/18
■ 寒天培地上のコロニーの識別
【質問】
 はじめまして。いつも質問箱を拝見させていただいています。私は大学の研究室で細菌の同定を行っています。今日は, 寒天培地を使ったバクテリアの選択方法について質問があり, メールさせていただきました。

 特定の細菌を寒天固体培地上でスクリーニングする時, 標的バクテリアの資化性を指標にコロニーを識別する方法を常用すると思います。例えば, 培地に添加したある種の糖を資化し, 酸を精製する菌をターゲットにする場合, pH指示薬を加えることで酸生成菌のコロニーを目で見て判断し, 識別する手法があるかと思います。

(1) pH指示薬として寒天固体培地に添加できる試薬にはどのようなものがあるのでしょうか??? また, それらはどのように使い分けをしているのでしょうか??? (例えば, pH指示の範囲や対象となる菌株などで使いわけ)

(2) 有機酸 (特に酪酸, プロピオン酸) を生産する細菌種を寒天固体培地上で識別したい場合, 上記のpH指示薬を用いた識別法は可能でしょうか??? 可能な場合, 使用するpH指示薬の種類を教えて下さい。また, pH指示薬以外の識別法はありますでしょうか???

 ご指導, よろしくお願いいたします。

【回答】

 回答に先立って一言申し上げたく思います。この質問箱に質問をお寄せいただく前に, ご自身でどのくらい調べる努力をされたでしょうか??? あなたの置かれている研究環境から察しますと, 専門書を紐解くことはさほど困難であるとは思えないからです。例えて言うならば, 正確な電波時計を身に付けているにもかかわらず, その時計を見ずに, 他の人に時間を尋ねるようなものだと思うのですが, 如何でしょうか???

 ご質問は, 微生物の工業利用を目的とした有用物質産生菌のスクリーニングに関することと察しますが, この解答を得る過程こそがまさに重要なことなのではないでしょうか。もちろん, スクリーニングして見出した菌株を用いて, 様々な有用性を検討することが主題なのかもしれませんが, 基礎的実験の成功・失敗のすべてが最終的な考察の糧となるはずです。少しの手間を省かずに「膨大な試行錯誤」の上に結論を導き出すことの大切さを実感して欲しいと思います。以上を踏まえて, 質問に簡潔に回答させて頂きます。

(1) に関しては, 「新細菌培地学講座<下> 坂崎利一ら著・近代出版」が参考になると思います。なお, 種々の指示薬の使い分けですが;

 a. 目的の菌の発育を阻害しない指示薬を選択する

 b. 目的の菌のpH低下度に応じた指示薬を選択する

 c. 目的の菌による色調変化が明瞭な指示薬を選択する

などを考慮する必要があるでしょう。

(2) に関しては, 質問者も述べられているように, 資化性を利用してコロニー識別を大まかに行うことはありますが, ある特定の物質を産生する菌種をpH指示薬でもって鑑別することはかなり困難と考えます。ではpH指示薬以外の方法ということであれば, それは・・・菌の性状を丹念に調べ, その性状に応じた選択分離培地を新たに開発することかと思いますが, 如何でしょうか。いずれにしても, 冒頭に記しました文面の意図するところをお汲み取り下さい。

(信州大学・川上 由行)

【質問者からのお礼】
 pH指示薬を用いた特定微生物のスクリーニング法についてご指導いただき, ありがとうございました。まず始めに, 私の研究環境から考えて, 自身による問題解決の努力が足りないとのご指摘がありました。私の研究グループは, 未利用バイオマスの活用を主軸とし, 共生微生物 (複合微生物群集) を対象に未知のバクテリアを研究対象としてまいりました。近年注目されております難培養性微生物を相手に3年間の努力を続けてきましたが, 嫌気環境化での取り組みということもあり, ターゲットを絞った検討が困難でありました。専門書は「新細菌培地学講座」を始め, 「環境微生物学研究法」,「微生物の分類・同定実験法」などを参照して参りましたが, 迅速スクリーニングのプロトコールを確立するに至りませんでした。このような背景もあり, 実施例に対する情報が乏しい専門書から学術論文へと情報源を広げておりましたが, 限られた時間が迫り, 焦っていたことは事実です。冒頭に厳しいご指摘を受け, 我に返りました。ご指導頂いた, (1) 指示薬の使い分けのポイントと (2) 対象微生物選択分離培地について, 再度検討を行ってみたいと考えております。お忙しい中, ご回答頂きましてありがとうございました。


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