03/01/20
■ 反復して再発する偽膜性大腸炎
【質問】
 はじめまして。○×病院内科に勤務している医師です。偽膜性腸炎を繰り返す患者についてご教示いただきたく, メールさせてもらいました。

 患者は75歳の女性でC型肝硬変と胆のう結石, 軽度の痴呆症で通院中であります。平成14年4月に滋賀に転居され,すぐに胆石発作を起こされ, 入院されました。そのときは総胆管結石を乳頭切開で砕石しています。胆のう結石は肝硬変の程度が軽くないため (PT 60〜70%,BTR 3.0〜3.5,PLTs 8〜9万/μl), そのままにして退院されました。
9月に突然高熱が出現し, 入院されました。原因ははっきりしませんでしたが, 胆道系感染も念頭におきスルペラゾンを投与したところ下熱し, 退院されました。しかし,その2週間後, 下痢が4〜5日前から続くと訴えられ, 来院されています。便中のCD抗原陽性であり, 内視鏡でも偽膜性腸炎が疑われたので, バンコマイシン2 g/日を2週間投与し, CD抗原も陰性化したため退院されました。

 しかし, 1週後に下痢が再発したと訴え, 来院されました。この間はウルソ,ラックビーなどしか内服させていません (もちろん抗生剤は投与していません。また食事は普通に娘さんの料理を食べておられました)。CD抗原が再陽性化しているため外来でバンコマイシン1.5 g/日の内服を再開しましたが, 内服中にも拘わらず (再開後10日ぐらい) で下痢と発熱 (39度) が出現し, 再入院されています。入院時の便のCD抗原は陽性であり, 偽膜性腸炎が再発したと判断し, バンコマイシン 2 g/日にして, その後4週間内服させています。便CD抗原の陰性化を確認し, 退院されましたが, またまた1週間後に下痢が起こったとのことで来院され,やはり便CD抗原は陽性でした (この間ラックビーとビオフェルミンRの2種の腸内細菌製剤を服用させています)。現在もバンコマイシン 2 g/日を内服しております (現在14日目)。今後どのように治療すればいいのでしょうか??? ご教示いただければ幸です。

【回答】
 Clostridium difficile感染の再発率はVancomycinやmetronidazoleで治療した場合に10〜25%とされます(1)。2回以上の再発もまれではありません。再発が起こる危険因子として憩室の存在, 再感染, Toxin Aに対する低抗体価, 高齢者が指摘されています。これらのことから一回再発した症例は治療終了後に再発する率は65%と非常に高いことが知られております。C. difficileのVancomycin耐性は臨床例では報告されておらず, 抗菌薬耐性菌による再発は現在のところないと思われます。再発は治療終了後1〜2週目に起こることが最も多いとされますが1〜2ケ月後と遅れて発症する例も報告されております。

 本題の再発症例の治療ですが, 再発症例ではまず, C. difficileによる感染か培養, 毒素検定, CFなどで今一度確かめること (抗菌薬による完全治癒後も培養陽性, CD陽性となる例が知られている) が重要とされます。この確認後, 一回目の再発では, 症状が軽ければ経過観察のみですが, 中等症以上や高齢者, 乳幼児などでは10〜14日間 Vancomycinやmetronidazoleを用いたまったく同じレジメンで治療します。しかし2回目以上の再発の場合にはTedescoらは(2)Vancomycinの漸減療法とパルス療法を組み合わせた方法を推奨しております。具体的処方例は下記の通りです。詳細は原文(2)を参照してください。

 一回量は質問者の量と比べると1/4ですが, 成績は同等であることが報告されております。

第1週 ― 125 mg (一日3回経口): 第2週 ― 125 mg (一日2回経口): 第3週 ― 125 mg (一日1回経口): 第4週 ― 125 mg (一日おき経口): 第5 および第6週 ― 125 mg (3日毎経口)

 この試験成績の結果は, “All patients responded symptomatically; there were no relapses during a mean follow-up period of six months. (登録された22名の患者は全員症状が改善し, その後平均6ケ月追跡したが再発例は認めなかった)”というものです。その他の補充療法としてanion-binding resinsとしてColestipolとcholestyramineは単独ではあまり有効ではありませんが, Vancomycinやmetronidazoleと併用すると効果的であることが報告されております。またToxin Aに対する抗体を補充する意味でγグロブリンの静注も有効とされております。

(1) Guidelines for the diagnosis and management of Clostridium difficile-associated diarrhea and colitis. American College of Gastroenterology, Practice Parameters Committee. Gastroenterol (1997) 92 (5): 739〜50.
(2) Tedesco Fj, Gordon D, Fortson WC: Approach to patients with multiple relapses of antibiotic-associated pseudomembranous colitis. Gastroenterol (1985) 80 (11): 867〜8.

(琉球大学・健山 正男)

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