■ 食品衛生での大腸菌の検出方法 | |
【質問】
こんにちは。自分は今度高校生になる男子です。自分の親は前に食中毒になってしまって以来, やたらと“大腸菌だ。ばい菌だ”と言う言葉に過敏になってしまって, 少し心配になるくらいです。しかしそれがきっかけで, 食品系の高校に興味を持ち, 高校への推薦が決まりました。決まって以来, 自分なりに色々な知識を集めようと思って本屋などで調べたのですが, あまり細かい検出方法とかが載っていませんでした。で, 友達に相談したら, ネットで企業や大学に聞いてみるのが良いと言われメールしました。一応今は大腸菌の検出方法とカウント方法について調べています。この二つの実験方法を教えて頂ければ幸いです。 【回答】
さてお尋ねの件ですが, 一般的名称 (和名, 通俗名) で言う≪大腸菌≫は正式には学名でEscherichia coli (エシェリヒア・コリ―) と言います。エシェリヒアはこの菌の基準となる株を検出したTheodor Escherichにちなんで命名され, コリ―はcoli (大腸) のことです。大腸菌はヒトや動物の腸管内に生息し, 消化吸収, ビタミン合成, 異物の代謝などを司る重要な役割を演じています。大腸菌は腸管内では通常無害とされていますが, 一旦腸管外に出て他の臓器に感染すると病原性を発揮します。例えば尿路に感染すると膀胱炎や腎盂腎炎を起こし, 呼吸器系では肺炎や気管支炎をさらに, 血液中に迷走すると発熱など重篤な疾患にまで発展します。ただし, 先ほど大腸菌は腸管内では通常無害と言いましたが, 例外があり, 特別な病原因子 (毒素) を産生する一群の大腸菌も存在します。よく知られているのがO157であり, 下痢, 腹痛, 嘔吐, 発熱などの症状を起こすことから, これらを下痢原生大腸菌と呼んで別扱いにしています。 大腸菌は長さ2〜6μm, 幅0.5〜1.5μm (μは1/1,000 mm) で400〜1,000倍率の顕微鏡で観察して確認できる大きさです。ただし, 生息環境や菌におよぼす薬剤などの影響によっては球形になったり長く伸びたりするなどの形状変化が見られます。増殖は2分裂方式であり, 約15分に1回の割合で繰り返されるわけですが, 永遠に増殖が進む訳ではなく, ある一定時間がくれば増殖が弱まるか停止し, その後自然死滅する菌がでてきます。このような増殖は自然界で一般的に起きており, 病気を起こす場合はかなり大量な増の殖菌による影響と言うことになります。例えば膀胱炎患者さんの尿1 ml中には100万匹〜1億匹位の大腸菌が存在します。 本題の大腸菌の検出とカウントですが, 一般的には顕微鏡による鏡検法と人工培地を用いた培養法があります。顕微鏡法は検査を目的とする材料の一定量 (例えば0.01 ml) をスライドグラスに載せ, カバーグラスを架けて400倍率の顕微鏡で観察し, 全体でどのくらいの数がいたかを数えるか, または同じ量をスライドグラスに広げ, 乾燥後, 色素を用いて菌体を染色し, 1,000倍率顕微鏡で全体の数をカウントする方法です。ただし, この方法では生きている菌か死んでいる菌かの判断はできないこと, さらに大腸菌かどうかの判断もできません。それゆえに顕微鏡法は, 最初から大腸菌が含まれていることがわかっている材料についてのカウントで利用することになります。 一方の培養法ですが, 栄養素 (肉エキスやペプトンなど) に寒天を加え, 無菌的にプラスチックシャーレ (直径 9 cm, 高さ 1 cm程度の使い捨てペトリ皿) に固めた培地を利用します。大腸菌のみが含まれる材料を用い, その中に生きた菌がどのくらい存在するかを調べたい場合は, 基本的成分を調合した普通寒天培地を用います。先ほどの顕微鏡法と同様に一定量を培地に落とし, 無菌的に滅菌棒で全体に広げます。この時かなり大量の菌が存在することが予想される場合は, 元の材料を滅菌水で何段階かに薄め, それぞれの一定量を培養します。これらの培地は通常35℃のフラン器に置き, 18〜24時間または48時間培養後, 発育してきた集落をカウントします。1集落は, もともと1匹の細胞が2分裂増殖して生み出された子孫の集団であることから, 1集落を1個とカウントします。材料をあらかじめ薄めた場合は, その希釈倍数を乗じ, 概ね1 ml中の菌数で表します。また, いろんな細菌が混在しているような材料 (例えば便など) から大腸菌を検出しようとする場合は, 大腸菌以外の菌を阻止するような成分や大腸菌だけが特殊な色調になるような成分を培地に加え培養することができます。 質問には, どんなところ (もの) から検出するかが記載されたおりませんので,
一般的な回答にとどめました。いずれにしても新1年生として生物に接することになる訳ですので,
大腸菌に限らず一般的な検査法 (検出法) の詳細な資料や文献については, 指導される先生から推薦してもらってください。
(大手前病院・山中喜代治)
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