04/01/05
■ ディスク法でのESBL
【質問】
 前回, 凝集反応についてわかりやすい回答ありがとうございました。総合病院の細菌検査室に勤める検査技師です。

 耐性菌について, 教えていただきたいのです。免疫不全の患者さんから, 毎回, ESBL産生のK. pneumoniaeが検出されていました。毎回, ディスク法でESBLの産生を確認していたのですが, 徐々に阻止円の中に菌が生えてくるようになり, CTXとCTX/CVA, CAZとCAZ/CVAのそれぞれ阻止円の差が5 mm以上でなくなってしまいました。この場合, ESBL産生は否定されるのでしょうか。薬剤の感受性パターンは変わらないようです。

【回答】
 ご質問では, クラブラン酸 (CVA) によるCTXとCAZの阻止円拡大が判定基準の5 mm以上にならなかったとのことですが,おそらくESBLs産生が否定されるのではなく, 他の耐性機構が同時に関与している可能性があると思います。これは当院での経験ですが,数年前にAML患者の血液培養から多剤耐性のKlebsiella pneumoniae を分離しESBLs産生を疑いました。しかしCVAによる明確な阻害効果がなくESBLsと判定することはできませんでした。クラスBやクラスCのβラクタマーゼのような他の耐性因子の存在も考えられましたので,P/Cアーゼテスト (日水製薬) を用いてβラクタマーゼの型の検査をしました。結果はペニシリナーゼのみの産生と判定され,クラスBやCのβラクタマーゼは関与していないだろうと考えられました。この菌株を北里大学で詳しく調べていただいた結果,TEM 型のESBLs遺伝子を保有することがわかりました。そして伝達試験の結果,分離菌の中のESBLs遺伝子だけが宿主となる大腸菌に伝達され,伝達株のCTXとCAZに対するMICはCVAの添加によって1/8 (3管) 以上低くなっていました。つまりこの菌株はESBLsの遺伝子とともに, おそらく染色体上に存在すると考えられる他の耐性因子を同時にもっていたものと推定されました。K. pneumoniae は染色体性のLEN-1やSHV-1型のβラクタマーゼを持つことが知られており,これらの過剰産生に加え, 膜の変化が重なるとCAZのMICが32μg/ml程度になることもあるといわれています1)

 今回ご質問のあった菌株の場合は, あくまで推測の域をでませんが,毎回検出されていたとのことですから,抗菌薬治療経過中にK. pneumoniae がもともと保有する耐性因子が徐々に誘導されて発現し,CVAによる阻害効果が見えにくくなったという可能性がひとつ考えられます。分離菌を薬剤を含まない培地で何回か継代培養した後に, 再度ディスク法で検査されると5 mm以上の差が再び現れるかもしれませんので,一度試してみてはいかがでしょうか。また薬剤の感受性パターンは変わらなかったのであれば,クラスBやCのβラクタマーゼの関与はあまり考えられないと思いますが, P/Cアーゼテストでβラクタマーゼの型を確認することも判断の手助けになると思います。

〔参考文献〕

(1) 荒川宜親: 広域β-ラクタム薬耐性に関与するβラクタマーゼの特徴と遺伝的相関. 日本臨床微生物学雑誌. 13: 150〜161, 2003.


[戻る]