04/07/20
■土壌中の腸球菌を定量したい
【質問】
 土壌中の衛生菌の指標として「腸球菌」の大ざっぱな計数を平板培地で行いたいと考えています。「腸球菌」の選択培地を調べてみると, 様々なメーカーから数多くの培地が販売されていますが, どの培地を選べばよいのか迷っております。環境中の「腸球菌」の計数を行ううえで, (Q1) どの培地を, (Q2) どんな理由で選び, (Q3) 何に注意して使用されているのか・・・コメントをいただけますと, 大変ありがたく思います。

 例えば「クロモカルト腸球菌寒天培地」(M社) は特異的な酵素活性をみて判別すると説明されており, 選択性は高そうに見えますが, 一方で, 他の培地に比べて基質の種類が少なく, この培地には生育しない腸球菌も多いのではないかとも思えます。また「KF レンサ球菌寒天培地」(D社)) は, 基質の種類が多いので, 多くの腸球菌が発育できそうに思えますが, 一方で雑菌との識別には熟練を要するのではないかとも思えます。培地のカタログやホームページを拝見しただけでは判断が難しく, 実経験者の方々のご意見をお伺いできればと思い, 質問させていただきました。

 (Q4) 識別のしやすさ, (Q5) 一般によく使われている培地などの観点からもコメントいただけますと幸いに思います。

以上, よろしくご助言いただけますようお願いします。

【回答】
  腸球菌が土壌や水系などの環境に対する衛生指標菌として, 従来の大腸菌群と比較して, より適正であるとされていることはご承知の通りです。しかしながら, 腸球菌の検出や定量的検査方法に関して, 統一された明確な指針や基準がないことも事実です (なお, 「食品衛生法」におけるミネラルウォーター類に関する規格基準には, 腸球菌が検出されないこととの記載を認めますが, これは今回の質問の主旨とは異なると思いますので除外しましょう)。

 さて質問者は,「土壌中の衛生菌の指標として“腸球菌”の大ざっぱな計数を平板培地で行いたいと考えています」と述べられていますが, この「衛生菌の指標」という目的を達成させ得るためのそもそもの基準が明確ではありませんのでコメントが困難です。一般的に腸球菌は, 人間を含めた動物の糞便中に多く存在することから, 自然界における糞便汚染のバロメーター, 即ち衛生指標菌になり得るのだと考えます。しかし残念ながら, その検査法と評価の仕方に関するデータについて, 回答を持ち合わせていません。この試みに関する論文は散見されますが, 公式に認知された方法は未だ確立するには至ってないということかも知れませんが, 臨床微生物検査として, ヒトの糞便中腸球菌の定量の経験に基づいて, 質問に沿って述べさせていただきますと, (A1): アジ化ナトリウムを添加した市販の腸球菌選択培地を, (A2): 選択性の良好さより採用し, (A3): 計数可能な希釈系列の作成に留意しながら使用したという経験があります。ここで問題なのは, 選択性を高めることによる発育支持力の低下なのですが, 筆者の経験事例では, 特定個体における週単位の経時変化に関する追跡調査の比較データを取るという目的であったために, 特に不都合は生じませんでした。

 質問者が挙げられたいくつかの市販腸球菌選択培地ですが, 各々が長所短所を持ち合わせていることはご承知の通りです。また識別のし易さなどの使用感に関しては, 使用する者の好みによるところも大きいものと考えます。

 質問者の意にそぐわない回答になってしまい, 申し訳なく思っておりますが, 環境の衛生指標菌としての腸球菌の正しい検出方法とその評価法について研究し, 論文として世に発表していただければ, 同様のことで悩んでいる多くの実務者の助けになると思いますので, 是非とも取り組んでいただきたいと願っております。

(信州大学・川上 由行)

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