03/09/05
03/09/25
■ EMB培地での大腸菌群の判定
【質問】
 初めてメールさせていただきます。私は食品会社で微生物検査を担当しておりますが, EMB培地による大腸菌群の判定基準がよくわかっておりません。弊社では金属光沢を有する集落のみ「陽性」と判定していますが, 栄研の食品微生物検査マニュアルでは「金属光沢を発する黒色集落, 中心部のみが黒色の集落または集落全体が淡赤褐色の集落」を「陽性」とうたっており, 結局黒色集落はすべて陽性なのではないのかとも受け取れるのです。「金属光沢を発する黒色集落, 中心部のみが黒色の集落または集落全体が淡赤褐色の集落」をどこで区切ってどのように解釈すればよいのか, そしてEMB培地以外にもっと判定しやすい培地はないのか, お教えいただければと思います。

【回答】
 EMB培地は, メチレンブルーの添加でグラム陽性菌群の増殖をある程度阻害し, 乳糖分解菌の集落をエオジン染色によって判別する培地です。EMB培地に大腸菌群が増殖すると, 乳糖分解による酸の産生のため集落が酸性化します。集落が酸性化すると, 培地組成中のエオジン (酸性色素)により黒色化します。大腸菌群の中で大腸菌などは、培地中の乳糖を分解して集落が酸性となり, エオジンによる黒色化および蛍光を発し, それにメチレンブルーの色と相まって, 黒褐色で金属光沢をもつ特有の集落となります。一方, 大腸菌群の中でもKlebsiellaおよびEnterobacterなどは, 乳糖を分解して集落が酸性に傾きます。しかし培地がpH 6.0付近になると, ピルビン酸を縮合してアセトインを形成するため酸性化の進行が停止します。このためエオジンの色素摂取が弱いと推定されています。したがって, EnterobacterKlebsiellaの集落は黒褐色から暗紫赤色になります。またアセトインを形成しない大腸菌群でも, 培養時間が長かったり, 発育が旺盛な場合には, 培地のアルカリ化により集落が暗紫赤色になります。

 以上のことからEMB寒天培地における大腸菌群が疑われる集落は, 黒褐色で金属光沢集落から中心部が暗紫赤色集落のものになります。なお疑われる集落については, 必要に応じて乳糖ブイヨンおよびグラム染色などによる完全試験を実施することをお勧めします。

(栄研化学・マーケティング統括部)
【追加質問】
回答ありがとうございました。回答から;
(1) 大腸菌群の場合, 金属光沢を発生しないでも陽性と判断できる。
(2) 集落のpHにより, 色は変化する。酸性側に傾けば黒色化し, ややアルカリに傾けば (pH 6.0程度) 暗紫赤色になる
 と理解しましたが, 正しいでしょうか???
 また, X-GAL培地を現在併用して使用しておりますが, こちらのほうが判定しやすいように思いますが, いかがでしょうか。なお, 乳酸ブイヨンで完全試験したこともありますが, この段階でこの試験を行う意味が今ひとつ納得できません (必ず陽性になるのでは???)。度重なる質問で申し訳ありませんが, 宜しくお願いします。

【回答】
(1) EMB培地上での大腸菌群の陽性判定
(2) 集落のpHにより, 酸性側は黒色化し, アルカリは暗紫赤色になる
 共に, その認識でよろしいと思います。
(3) X-GAL培地のほうが判定しやすいのでは
X-GAL培地は, 乳糖分解酵素であるガラクトシダーゼ活性を指標として大腸菌群を確認する培地です。このため,大腸菌群の定義 (乳糖を分解して酸とガスを産生する通性嫌気性のグラム陰性無芽胞桿菌) と異なり, この定義より広範囲の菌が対象になります。X-GAL培地などの合成酵素基質培地は確認性・迅速性を考慮して開発された培地ですが, 乳糖を指標とした従来の方法と比較した場合, 大腸菌群の陽性率が高くなると言われています。
(4) 完全試験で乳糖ブイヨンを使う理由
大腸菌群の定義は, 乳糖を分解して酸とガスを産生する通性嫌気性のグラム陰性無芽胞桿菌です。大腸菌群検査は, 推定・確定・完全試験を行うことで上記の定義に当てはまる菌がいるかどうか確認する試験です。確定試験では, EMB寒天培地を用いて乳糖を分解して酸産生性により集落の特徴付けがされます。そして最終的に完全試験でグラム染色を行い, グラム陰性, 無芽胞を確認します。また乳糖ブイヨンにより乳糖からのガス産生を確認します。
(5) EMB培地からの定型的集落で完全試験を行うと必ず陽性になるのでは
EMB寒天ではガス産生を確認できません。またグラム陽性・陰性, 芽胞の有無も確認できませんので, 最終的に完全試験を行い, 大腸菌群の有無を確認する必要があります。

(栄研化学・マーケティング統括部)

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