04/07/20
04/07/27
■ 糞便由来のKlebsiella oxytoca
【質問】
 いつも大変参考にさせていただいています。○×総合病院の検査部で細菌検査を担当している臨床検査技師です。

先日, 入院患者の便培養からKlebsiella oxytocaが検出されました。純培養状に検出されたわけではなく, 他にE. coliK. pneumoniaeも同程度の菌量で検出されていたのですが, 腸炎を疑っているようだったので『入院患者だから, 抗菌薬関連腸炎の可能性も含めて考えているのかも???』と思い, K. oxytocaが検出されたことを報告しました。その後, 看護師から「薬剤感受性試験が実施されていないが, 何故か」との問い合わせがあったので, K. oxytocaは抗菌薬関連腸炎の原因菌なので, 薬剤感受性試験は原則実施していない旨を伝えたところ, 「主治医はそれを疑っておらず, 薬剤感受性試験の結果を見て処置をすると言っているので, すぐ実施してほしい」と言われました。それを聞いて, 『抗菌薬関連腸炎を疑っていないのであれば, K. oxytocaは単純に腸内の常在菌としてとらえてよいのではないか』と考え, 主治医に直接, 薬剤感受性試験の必要性を確認してみました。すると主治医から「最近K. oxytocaは病原性があると言われているんだ。細菌の知識もない者がごちゃごちゃ言わずに薬剤感受性試験を実施しろ!!!」という返答がかえってきました。自分ではいろいろと勉強していたつもりだったのですが, 最新情報にはついていけていなかったのかもしれないと思い, 文献など調べましたが, やはり便から検出されるK. oxytocaは抗菌薬関連腸炎としか分かりませんでした (文献が古いのでしょうか???)。そこで, 便から検出されたK. oxytocaについて, 本当に抗菌薬関連以外にも病原性があるといわれているのか, またそれはどのようなものなのか (症状など) を教えたいただきたいのです。『細菌の知識がない』といわれたのは本当にショックでした。どうかよろしくお願いいたします。

【回答】
 Klebsiella oxytoca の病原性については研究者によって意見が異なりますが,現時点では,質問者の方の捉え方で問題はないと思います。医薬品の副作用情報などで抗菌薬投与後に血便が出現した患者よりK. oxytoca が分離され,投薬中止後に下痢症状が改善したという報告が複数あります。ただそのような事例はありますが,たとえば腸管出血性大腸菌O157におけるベロ毒素といった特定の病原因子は見つかっていないのが現状ではないかと思います。最新の研究では何か新しい事実が見つかってきているかもしれませんが,抗菌薬関連腸炎としての認識が一般的ではないかと思います。おそらく主治医の先生がおっしゃられた“細菌の知識もない者が”という言葉の中には,“患者さんの状態 (臨床)も知らないで”という医師としての誇りのようなものがあったのではないかと思います。抗菌薬関連腸炎の多くは腸炎以外の感染の治療あるいは予防目的で抗菌薬が投与された結果起きてきますので,抗菌薬関連腸炎を疑っても簡単には投薬を中止することは出来ないことがあると思います。ですから主治医の先生は薬剤感受性の結果をみて, 適切な抗菌薬を選びたかったのではないかとも考えられます。

 私もこのような“苦い経験”が何度かありますが,逆にこのように叱ってくれる (返事が返ってくる) 先生は,後でいろいろと相談にのってくれたり,自分で問い合わせの電話をしてくれたりするようになることがあります。これを逆にチャンスと思って, ご自分で調べられた文献などの資料を持って先生のところへ相談しに行かれたらいかがでしょうか。案外親身になって話を聞いていただけるかも知れません。今回, 質問者の方の対応は勇気ある行為であり,過剰投薬を防ぐ意味においても大切なことだと思います。これを契機に, 臨床とのよりよい関係を築かれることをお祈りします。

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)


【質問者からのお礼】
 便由来のK. oxytocaについて, 丁寧な回答を頂き有難うございました。また同時に, 臨床との良い関係の築き方までご指導頂き, 大変参考になりました。実のところ, 細菌検査を担当していて, 培養結果をどう解釈してよいものか悩むこともしばしばありました。患者情報が乏しかったのもその原因の一つだったと思います。今回の回答を参考に, 臨床とよりよい関係を築いて, 有用な検査データを報告していけるよう努力したいと思います。


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