02/09/25
■ 芽胞形成菌と院内感染, 滅菌
【質問 (その1)】
 芽胞を形成する菌はほとんどが嫌気性菌だと思いますが, 病院内で医療器具が芽胞形成菌に汚染されたと考えられる患者さんへの感染報告はどのくらいなのでしょう??? 芽胞形成菌で病院のリスクとなる代表的な菌種は何ですか??? あまり心配は要らないのでしょうか???

【質問 (その2)】
 中央材料室に勤めている方からよく質問されます。何故滅菌しないといけないのか??? EOGなどを使用すると人体にも影響が出るし, ランニングコストが高い。パスツール殺菌ではいけないのか??? これまで院内感染の原因が芽胞形成菌による事例はありますか??? もし事例がなければ, 医療器具は75℃, 30分のパスツール殺菌で十分なのではないでしょうか???

【回答】

 医学的に重要な芽胞菌は, 偏性好気と通性嫌気菌を含むBacillus spp.と偏性嫌気性菌のClostridium spp.と考えていいでしょう。芽胞形成菌でしばしば病院内感染を起こす芽胞菌には, Bacillus subtilis(BS), Bacillus cereus(BC), Clostridium perfringens(CP), Clostridium difficile (CD)などがあります。

 BSやBCは, 環境中にふつうに見られる菌で, 免疫不全の患者さんに敗血症を起こすことがあります。従って, 通常無菌の部位に使用する医療器具は胞子を殺すことができる滅菌, 加熱滅菌できない材料でも胞子をも殺菌できるような高度なレベルの消毒法が必要です。免疫不全状態の患者さんに使用する医療器具をパスツリーゼーションですませるというのはとんでもない話です。

 CPやCDは糞便中にみられる嫌気性菌で,, 特にCDは抗生物質治療を受けているような抗菌薬関連下痢症や偽膜性腸炎 (Clostridium difficile: CD症ともいいます) の原因になる菌として知られています。CD症で下痢をしている人の病室やそのひとが使用するトイレなどは, CDの胞子で汚染されているのです。医療従事者の手にCDの胞子がついていることがあります。口腔や粘膜表面で使用するような医療器具がこの胞子で汚染していると, 抗菌薬関連下痢症状や偽膜性腸炎の原因となり, さらに医療従事者が介する交差感染により, アウトブレイクが起こることがあります。また最近, 高齢者の入院患者さんで, 消化管に異常がみられないにもかかわらず, 血液中からCDが分離される例が報告されていますので, BSやBCの場合と同じように, 汚染した医療器具が原因となっている可能性も十分考えられます。

 とにかく, 酸素に弱い嫌気性菌でも, その芽胞は大気中で長期間生きていますし, 酸化還元電位が低い傷口などにつくとすぐ増殖可能ですので, 十分注意して下さい。病院内で医療器具が芽胞形成菌に汚染されたと考えられる患者さんへの感染報告は多いのかという質問には, CDによるアウトブレイク例はたくさんありますとお答えしておきます。

(岐阜大学・渡邉邦友)

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