04/04/13
04/04/16
■ ガス産生の乳酸菌
【質問】
 こんにちは。食品メーカーで品質管理業務に従事しているものです。

 先般商品の“膨張現象”が見つかり, 微生物の見地より原因菌種の特定を実施して

いるのですが, 思うように菌の分離がうまくいきません。各種検査法に則り, 生菌として捉えた菌はあったのですが, この菌を増殖させ, 製品に再接種を施しましたが, 思うように再現されませんでした。捉えた乳酸菌は L.paracasei でしたので, ガス発生してもおかしくはない種のはずなのですが・・・以上の操作は主に“好気的条件”にて実施しています。

 ここで質問です。一般的に乳酸菌は, どの文献をみてもそれこそ「一般に乳酸菌は通性嫌気性」とあります。ガス発生を起こす乳酸菌で, 「絶対嫌気性」の種は存在しますか???

 ちなみに, 当検出菌種は桿菌で, ビフィズスのではない様です。問題製品の条件はpH 4.2 Aw 0.91 総酸1.6 食塩5.9 でした。以上, おわかりになるようでしたらご返答よろしくお願いいたします。

【回答】
 総論的に言えば, 乳酸菌を乳酸産生菌と読み替えれば, そのような偏性嫌気性菌はいくつか存在します。例えば, Leptotrichia, Atopobium, Collinsella, Clostridiumなどです。最新の分類によると, 代表的な乳酸桿菌のLactobacillus属の菌種や乳酸球菌のEnterococcusは通性嫌気性菌であると考えていいでしょう。乳酸球菌のStreptococcusは耐気性の菌です。耐気性の菌ということは, 嫌気性環境が発育により適しているということです。また, Streptococcus milleri groupの菌は, 微好気性環境または嫌気的環境で発育が好気環境より旺盛です。初代分離で嫌気環境でしか発育しない菌株もあります。

 さて, “膨張現象”といえばガス。ガスといえば嫌気性菌が関係することが多いとされます。ガス産生菌としては, 偏性嫌気性菌である有芽胞菌のClostridium属の菌種が先ず頭に浮かびます。内容物の直接塗抹標本のグラム染色で陽性のストレートロッドを確認したのでしょうか??? 芽胞はみられませんでしたか??? 悪臭についての記載はないのですが, なかったようですね。検体のpHは低いのですが, 悪臭の強くないClostridiumも存在しますので, このような場合, 選択培地を非選択培地に加えて嫌気培養をすることをお勧めします。Clostridiumの存在を確実に否定することが大切ですし, 嫌気培養をすることにより, 好気培養で分離されたLactobacillus paracasei以外の乳酸桿菌が分離されてくる可能性も否定できないからです。また, 保存食品の種類が何か分かりませんが, 低温菌, 中温菌の他に, 高温菌, 好熱菌, 耐熱菌についても考える必要があるかもしれませんね。

(岐阜大学・渡邉 邦友)


【質問者からのお礼】
 この度は私の質問事項にわざわざご返答いただきましてありがとうございました。
さて今回の検出菌についてですが, 当初は耐酸性芽胞菌である『アリシクロバチルス』の類を疑っておりましたが, どちらかというと高温度域よりも20〜30℃程度の常温域にて膨張現象が頻発しておりましたことから, さらに “???” となり, 質問させて頂いた次第です。ちなみに該当品はドレッシングで, 原料に『ごま』を有し, 栄養源的にはかなりリッチな商材でした。いまだ不明で, お蔵入りになっておりましたが, ご回答を参考にさせて頂きます。どうもありがとうございました。


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