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【質問】
私は49床ある町立の病院に勤めている検査技師です。微生物に関しては,
すべて外注にしているのですが, ドクターからの希望で, グラム染色を院内でしてほしいといわれました。試薬,
そろえておく器具など, まったくわからないので, まずなにからそろえればよいのでしょうか???
また, 検体数が多くないと思われるので, (週に1〜2回ぐらい) 試薬の期限とか量とかおしえていただきたいのですが・・・・
【回答】
最近, 外注志向の施設が増えている中で, 迅速対応できる検査を少しでも院内で実施しようと言う姿勢には感銘を受けます。
さてグラム染色検査の実施に際し, 必要な器材・薬品・方法を以下に列記します。
1. 塗抹 (検体をスライドグラスに塗りつける操作) 用器材
(1) スライドグラス: なるべく脱脂したもの
(2) 白金耳や滅菌パスツールピペットまたは綿棒: 検体を塗抹する時に利用
(3) バーナー: 白金耳の灼熱操作やスライドグラスの固定操作に使用
(4) スライドグラス截て: なくてもいい
2. グラム染色液 (市販品利用が便利)
(1) メタノール: 塗抹標本の固定 (バーナーでの火炎固定でもよい)
(2) 前染色液: 多くはクリスタル紫水溶液
(3) ルゴール液: 前染色液との複合体作用に利用
(4) アルコール: 脱色操作に利用 (アセトンアルコールがいい)
(5) 後染色液: パイフェル液またはサフラニン水溶液
上記の染色液をセット (各500 ml入り)にした製品が各社紹介されています。古くからHucker変法が多用されてきましたが,
個人的にはBartholomew & Mittwer (B & M) 法を推奨します。その理由のひとつとして,
B & M法は経験差とは無関係にグラム陽性・陰性が明瞭に判断できる特徴を持っているからです。市販品として≪グラム染色液 B&Mワコー
(和光純薬工業株式会社))≫と≪ グラム染色 B&M山中変法 (メルク・ジャパン株式会社)≫が利用でき,
いずれも約1年間の保管使用が可能です。また, 1枚の標本染色には1〜2 mlの染色液が必要です。
3. B & M 法の染色手順 (熟達した方に実技指導してもらうことが大切)
(1) メタノールまたは火炎にてスライドグラス標本を固定
(2) 標本に1%クリスタルバイオレット水溶液を満載し, 直ちに5%炭酸水素ナトリウム水溶液,
数滴を滴下し, 30秒間染色
(3) 水道水で丁寧に水洗
(4) 2%ヨウ素水酸化ナトリウム溶液を満載し, 30秒間作用
(5) 水洗
(6) アセトン・エタノール混合液を用い, 素早く (数秒間) 脱色
(7) 水洗
(8) パイフェル液にて数秒間染色
(9) 水洗, 乾燥
4. その他の必需品
(1) 染色する場所 (通常は水道水が利用できる流しなどを利用)
(2) 光学顕微鏡 (100倍率, 400倍率, 1,000倍率)
5. 鏡検
上皮細胞や白血球細胞は100〜1,000倍率で, 細菌細胞は400〜1,000倍率で観察し,
グラム染色性 (陽性・陰性) と形態 (球菌・桿菌など) を判断します。さらに特徴的細菌の場合は菌種名まで推定可能であり,
さらに検体の種類によっては病原性か否かの判断もできます。ただし, これらの判断はある程度の熟練を要しますので,
多くの標本を観て知識を深めることと, 微生物検査を専門にしている方のアドバイスを受けることをお奨めします。
6. 参考資料の紹介
(1) 山中喜代治: グラム染色 Bartholomew & Mittwerを試そう. 日本臨床微生物学雑誌,
3: 21〜26. 1993.
(2) 山中喜代治: 迅速検査としてのグラム染色 Bartholomew & Mittwer
(B&M)染色法を中心に. Medical Technology, 23: 205〜213, 1995.
(3) 山中喜代治: 検査微生物学 (I) −細菌, 真菌, クラミジア, リケッチア,
感染症の検査診断―, 2. 細菌および真菌を対象とする検査技術, B. 染色, 顕微鏡検.
臨床病理 (臨時増刊) 特集第105号, 9〜14, 1997.
(4) カラーアトラス微生物検査: Medical Technology (別冊), 医歯薬出版 1996.
(大手前病院・山中喜代治)
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