03/07/29
■ ヘパリン生食の保存について
【質問】
最近, ヘパリン生食の保存について問題になりました。あるガイドラインで, “ヘパリン自体には微生物を増殖することはないが, 生理食塩水を添加することにより微生物が増殖する”ことを知りました。このことについてデータや詳しいことを教えてほしいです。また, セラチア菌やほかの菌に対して, ヘパリン生食を冷中保存したら問題がありますか??? 何時間ぐらいなら問題はありませんか??? 冷中保存しても駄目ですか??? 詳しいことやデータがありましたら教えて下さい。僕は京都で臨床工学技士をしています。透析室で働いています。

【回答】
 残念ですが, ヘパリンに生理食塩水を添加すると微生物が増殖するようになるのか否かという点についてはデータを持っていませんし, 知りません。市販の注射用医薬品 (生理食塩水やヘパリンナトリウムなど) は無菌であることが保証されていますが, 院内製剤であるヘパリン生食が病院内における混注操作を経て微生物汚染を受けることは指摘されています。厚生労働省は病院内で保存している混合液による院内感染例が多いとして, ヘパリン混合液による院内感染の防止徹底を昨年7月に通達しています。このことから, 同一容器のヘパリン生食を多数回, 多数の患者に使用することは, 集団感染の原因となるため避けるべきと思われます。対策としては, 製薬会社 (三菱ウェルファーマ, テルモなど) からルート維持のためにヘパリンロック製剤を発売していますので, 経費の問題はありますが, それを使用することをお勧めします。その他, “抗生剤ロック”と呼ばれ, ヘパリンロックの生理食塩水の中に, さらに抗生剤を混ぜるという考えがあります。カテーテル感染症の主な病原菌は表皮ブドウ球菌ですが, これらに最も効果がある抗生剤としてバンコマイシンがよく用いられています (普通のヘパリン生食に, さらに25 mgから100 mgのバンコマイシンを加える)。カテーテル感染は, カテーテル先端の血栓内やカテーテル自体の内面といった, 通常抗生剤の入りにくい場所に細菌が増殖するため, その局所に抗生剤を送り込もうという作戦です。経費の問題, 耐性菌の問題などありますが, HIVの患者, ガンの化学療法中の患者などでは確かに良好な結果が出ており, CVラインも抗生剤ロックを行い, 感染症なく, ワンショット用に使用できるということです。少なくとも耐性菌の出現の問題さえなければ, 優れた方法なのかもしれません。

(琉球大学・糸嶺 達)

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