■ ヘルパンギーナの確定診断の方法について御教示下さい | |
【質問】
前略、質問をさせて下さい。お世話になります。 夏かぜの一つとして夏 (6・7・8月) ヘルパンギーナ (コキサッキーA) が幼児から学童に認められますが, 咽頭粘膜の発赤 (場合によっては白苔) を伴う高熱を認めます。原因としては, コクサッキーウイルスA群2・4・5・6・8・10型, 稀にB型やエコーウイルスも指摘されていますが, これらを確定診断する方法について解りやすく解説をいただきたいのですが・・・ また一般開業医レベルで原因ウイルスの確定まで行う必要はあるのでしょうか??? 臨床症状と流行時期から判断してもよろしいものでしょうか??? また, ヘルパンギーナの場合の休園・休校などの指示として適正なものがございましたら, 併せて御教示下さい。 【回答】
まず, ヘルパンギーナは御指摘のように, A群, B群コクサッキーウイルス,エコーウイルスなどのエンテロウイルス感染により発症します。したがって何回も罹ってしまう疾患といえます。 その確定診断法としては, 患者の咽頭ぬぐい液や水疱病変部,糞便, (髄膜炎を合併した場合は髄腋) などを検査材料としたウイルス分離を行います。PCR法などによる遺伝子診断も可能ですが, 確定診断はあくまでウイルス分離が基本となります。ただしウイルス分離は, 生きた細胞 (乳のみマウス,初代サル腎細胞) や特別な設備が必要で, 手技も煩雑で時間もかかるため, 一般にはあまり行われません。 血清学的診断法としては, 急性期と回復期のペア血清を用いた中和反応,補体結合反応などがあり, 4倍以上の特異抗体価の有意な上昇を認めれば診断補助となります。しかし臨床的意義はあまり認められません。中和反応は, 生きた細胞を必要とし, 操作が煩雑で, 結果を得るまで時間がかかるなど, 日常検査としての有用性は乏しいです。また補体結合反応では, エンテロウイルスの場合, 各型間での交差反応が多くみられるので, 確定診断としての臨床的意義は低く, 一般にはあまり行われません。 以上のことを含め, ヘルパンギーナの場合, 臨床症状から比較的判断しやすいものであり, “原因ウイルスの確定まで行う必要はない”と考えられます。原因ウイルスの確定が必要なのは, 特効薬としての抗ウイルス剤が開発され, 市販されている場合です。ヘルパンギーナの治療法としては, 発熱や食欲不振への対症療法しかなく, 特に有効な予防法があるわけではありません。抗ウイルス薬は抗菌薬と異なり, どのウイルスにも有効な薬剤ではありません。インフルエンザウイルスなどのように, 抗インフルエンザ薬として特効薬が開発されると, それに伴い, 迅速抗原検出キットが開発されますが, エンテロウイルスの場合にはその開発は未だです。従って, 先生のおっしゃるとおり, 一般的には流行期や臨床症状による診断で十分なことがほとんどです。ただしエンテロウイルス感染は多彩な症状を示すので, ヘルパンギーナの場合も, まれに無菌性髄膜炎や急性心筋炎を合併する場合があります。その点は注意が必要かと思います。 また, 学校において予防すべき伝染病としてヘルパンギーナは明確に規定されたものではなく,
その他の伝染病として第三種に含まれます。必要があれば学校医と相談の上, 学校長が出席停止などの措置をとることができ,
出席停止期間は伝染の恐れがなくなるまでとされています。エンテロウイルス感染の性質上,
回復後も2_4週間は便からウイルスが検出されるので, 急性期のみの登校 (園)
停止は流行阻止を目的としては期待できるものではありません。患者の状態によって判断するべきで,
発熱などがある場合や症状が重い場合は安静を保ち, 回復したら登校 (園) させてよいと思います。
(研究会名誉会員・中村 良子)
|