01/09/18
■骨感染症における抗菌剤治療の中止時期
【質問】
はじめまして。病院で薬剤師をしています。骨へ移行した細菌を抗生物質を用いて治療する場合, 当然骨への抗生物質の移行のしやすさと抗菌スペクトルを考えて投与されます。この治療終了時期を知りたいのです。培養試験陰性になれば菌は死滅し, 抗生物質投与中止を行ってもいいのでしょうか?それとも, 以後も何日間か継続すべきなのでしょうか?また, 患部の細菌に対して直接, 抗生物質溶液を散布しても効果が期待できるのでしょうか?私は散布する方法では菌体全体を抗生物質で覆い尽くすことが難しいと考えているのですが。もちろん洗浄効果により菌量は低下するでしょう。よろしくお願いします。

【回答】
1. 骨へ移行した菌の治療終了のポイント 
 ご質問の場合, 骨髄炎の治療ということになると思います。 骨髄炎は難治性感染症の範疇に入り治療終了時期が非常に大切です。 通常は「治療開始後, 発熱, WBC, CRPが完全に正常化してから4〜6週間の継続治療」が必要です。特に原因菌が微小膿瘍を形成しやすいMRSAの場合は再燃しやすいため, 可能な限り長めに投与された方が効果的です。またCRPの完全陰性化が最も重要な指標です。さらに, 治療が長期化しますので腎機能, 肝機能などのモニタリングも重要となります。 
 感染症マーカーが正常化してもなお, 長期投与が必要な理由としては; 
1)骨髄内に感染が成立した場合, 組織内壊死または微小膿瘍を形成している場合が多いため, みかけ上治癒しても壊死組織内や膿瘍内の菌が死滅しきっていません。 
2)この死滅しきっていない組織内の菌 (静止期・休止期) を完全に死滅させるのに4〜6週間必要となります。 
3)4〜6週間必要な理由は, 組織壊死を起こしている場合, 菌の周囲にバイオフィルムを産生していたり, 毛細血管が壊死しているため, 多くの抗菌薬は移行 性が著しく低下します。さらに, 抗菌薬は基本的に増殖している菌に対して細胞壁合成阻害, 蛋白合成阻害, 核酸合成阻害などの作用によって増殖を阻止しますので, 休止期の菌に対しては効果的に作用出来ません。このため4〜6週間 必要となります。再手術が不可能な患者の場合, 治癒後3〜6ヶ月間もの長期間 薬剤を投与する場合も稀ではありません。 
4)また, 感染初期, 感染中期, 感染後期のいずれの時期に骨髄炎に気付き, 治 療を開始したか? また, 溶連菌か, MRSAか, グラム陰性桿菌か, サルモネラ菌かによっても終了期間・抗菌薬は異なります。 
2. 患部の菌に対する直接抗菌薬溶液の散布について 
 ご質問の意味がもうひとつ理解できませんが, 患部の菌に対して直接抗菌薬 溶液を散布してもさほど効果はありません。理由は, 深部感染症を起こしている骨髄に薬剤が移行しないからです。一方, 骨の表面だけを洗浄するという目的でしたらPAE (postantibiotic effect) 効果の高いアミノ配糖体やニューキノロン剤の高濃度の薬剤は有効です。 
 以上ですが, もし骨髄炎の患者さんの治療でしたら「専門医のアドバイス」を受けることを強くお奨めします。

(大阪大学・浅利誠志)

[戻る]