01/04/01
■ 耳鼻科領域での術後感染予防の抗生剤投与について
【質問】
 術後感染予防の抗生剤投与について御教授下さい。当院耳鼻科で術後感染予防の目的でクラリス, ファロム, フロモックスが投与されています。確かに耳鼻科領域への組織移行性は良いのですが, 抗菌力の強く高価なため感染予防の目的で使用してよいものかどうか疑問を持ちました。外科学会では第一セフェムを3日間投与が推奨されていると聞きましたが, 耳鼻科でもこれに準じて良いのでしょうか。また術後感染予防の抗生剤投与について, どこかに規約の様なものがあるのでしょうか。よろしくお願いいたします。

【回答】
1. 抗生剤投与に関するガイドラインについて
 耳鼻科領域に関する術後感染予防の抗生剤投与に関するガイドラインは国内では出版されていないと思いますが, 他に下記のガイドラインは入手可能です。
1)術後感染発症阻止薬に関しては, 日本化学療法学会より1997年に「術後感染発症阻止薬の臨床評価の関するガイドライン」が出されています。
2)呼吸器感染症に関するガイドラインとしては, 日本呼吸器学会から「成人市中肺炎診療の基本的考え方」というガイドラインが出されています。主に治療薬に関するガイドラインです。
発行: 日本呼吸器学会 3,000円 TEL  03-3254-3103
3)泌尿器感染症に関するガイドラインとしては, 日本泌尿器学会より「尿路感染症臨床試験のガイドライン」が出版されています。
4)感染症全般に関するガイドラインとしては, 日本感染症学会と日本化学療法学の合同で「副作用予防及び耐性菌予防のためのガイドライン?」が2001年の4〜6月頃に出版される予定です。

2. 耳鼻科領域での術後感染予防薬選択について
 耳鼻科領域における術後感染予防薬の基本的な考え方としては;
1)手術部位に基づき@清潔手術, A準清潔手術, B不潔手術の3段階に分ける。
2)手術部位またはその周辺に常在し, 手術時に汚染する可能性のある菌種を把握・整理する。(大きく, 好気性菌または嫌気性菌のみを対象とするか両者を対象とするかを把握します。また, 感染症原因菌種としては, 主にMRSA/MSSA, PRSP, H. influenzae, 緑膿菌及びM. catarrhalis等の有無を検査しておくことが大切です)
3)手術時間, 侵襲度, 輸血の有無等を考慮する。
(手術時間が長く, 侵襲度が強く, 大量輸血が想定される手術の場合は, 術前に可能な限り保菌検査をしておくことが大切です)
4)年齢, 基礎疾患, 投与中薬剤 (抗癌剤, ステロイド剤, 免疫抑制剤等)の有無を確認する。
 主に以上の事項を考慮し発症阻止薬を決めます。
具体例 (案) としては, 
*清潔手術→短時間手術→輸血なし→基礎疾患なし→投薬不要またはAMPC
*準清潔手術→手術時間(1時間以上)→輸血なし→CEZまたはPIPC                       
  :主に溶連菌群+ブドウ球菌+腸内細菌(PIPCは緑膿菌)を対象
*不潔手術→長時間手術→輸血あり→基礎疾患あり→CMZまたはCTM 
  :主に溶連菌群+ブドウ球菌+腸内細菌+嫌気性菌群を対象 

 これらの薬剤が発症阻止薬として推奨されます。また, これらの阻止薬の投与は術中より開始し, 術後約1〜4日間で局所症状及び全身症状 (SIRSの確認)を観ながら中止します。これらの阻止薬が無効で術後感染症を呈した場合に前記の薬剤より抗菌力の強い第三世代セフェム (FMOXなど), カルバペネム, ニューキノロンなどの薬剤を使用します。

 また, 耳鼻科領域では薬剤が移行し難い部位が多いため, 組織内移行性の良いマクロライド系薬剤やCLDMも予防薬として汎用されています。しかしながら, 清潔手術や準清潔手術の発症阻止薬として初めからファロムやフロモックスの投与は好ましくありません。
一方, MRSA等の耐性菌を保菌した状態で手術した場合は, 術後に使用する発症阻止薬を慎重に検討します。MRSAの場合でしたら自施設の感受性統計データよりST合剤 (またはバクトラミン)かMINO等を発症阻止薬として考慮します。

 自施設の耳鼻科で扱っている疾患・手術内容及び術後に検出される原因菌等を十分に検討した上で発症阻止薬を決めてみてはいかがでしょうか?また, 阻止薬も複数の薬剤を選択し1〜2カ月毎に換えて使用しますと耐性菌の出現頻度も低下します。まず, 現状の耳鼻科の感染症状況を疫学的に数値でまとめ, 対策を講じた後に使用薬剤を再評価することが大切です。

(大阪大学・浅利誠志)

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