03/01/06
■ “かび”の乾燥保存方法について
【質問】
 未同定のカビを保存しようと考えています。?80℃の凍結保存法を用いて保存したのですが, 乾燥状態での保存も考えています。調べてみたところ, 乾燥した担体に菌液を染み込ませて乾燥させるという方法があるらしいのですが, 詳しい手法がよくわかりませんでした。わが社ではデシケーター中で乾燥させることになります。その場合, デシケーターは室温で使用してもかまわないのでしょうか? また, 常圧に戻す場合, 雑菌の混入に最も注意を払わなければならないと思いますが, 特に気をつけることはあるでしょうか? このカビは胞子形成が悪い種類のようですので, 菌糸の懸濁液として保存しても構わないのでしょうか? 以上よろしくお願いいたします。

【回答】
 ご質問の保存法は一般的にL-乾燥 (drying from the liquid state: L-drying)と呼ばれている方法のことと思われます。

 原法では滅菌綿球に, また他法は滅菌ろ紙に高濃度菌液を1〜2滴しみ込ませ, 真空乾燥させる方法で, 凍結乾燥法に比べ細胞の凍結傷害がない点が優れているとされています。しかしデシケータで行って, 良い成績が得られるかは疑問です。操作は室温で構わないと思います。後述の著書にある発酵研の一部改変法 (菌液を担体にしみ込ませず, そのままアンプルに滴下し乾燥させる方法) を簡単にご紹介します; 

 (1) 培養菌体を分散媒に懸濁し, 滅菌アンプルに少量分注。
 (2) 滅菌綿栓をアンプルの中程に押し込む (アンプルの真中に浮いた状態)。
 (3) 凍結乾燥機の多岐管に取り付け, 吸引・乾燥 (1〜2時間)。
 (4) 乾燥後, 真空状態で上部を溶封し, テスラコイルで真空度を確認し, L-乾燥標本とする。

復元法

 (1) アンプルの外側 (アンプル内の綿球の真中部分) をカッターで傷つけ, さらに熱をかけて割り, アンプル上部を取り除く。

 (2) 滅菌綿球の上半分が出てきて, アンプルの綿栓の役割をしていますので, 綿栓をとり, アンプル底部に乾燥末となっている菌体に復元水を0.1 ml程度入れて戻す。

詳細は[宮治誠・西村和子・宇野潤 編: 化学と生物 実験ライン 24. 病原真菌 (廣川書店, 1992)]を御参照下さい。

(北里大学・阿部美知子)
【読者からのコメント】
 突然お手紙を差し上げます失礼,ご容赦願います。私, 民間企業で微生物を取扱っております者です。さて,ここにお手紙を差し上げますのは,貴会のホームページにある質問箱へ寄せられた標記の質問に対する回答についてコメントさせて頂くためです。

 貴会のホームページにある質問箱に寄せられた懇切丁寧な回答から,多くのことを学んでいます。ところで,最近質問箱に寄せられた「“かび”の乾燥保存方法について」への回答は,企業内微生物菌株コレクションの担当者として微生物菌株の保存にも携わっている立場から見て必ずしも質問者への適切な回答になっていないように思えます。小生が適切でないと思うのは,下記の事柄が回答でまったく触れられていないことです。質問者は菌糸の懸濁液が乾燥保存法で保存可能かどうかをも聞いていますので,なおさら適切な回答になっていないのではと感じております。

(1) 乾燥保存法で保存可能なのは,基本的には菌類 (カビ) の分生子 (胞子) であって,菌糸には乾燥保存法を適用することは困難である。

(2) 回答者が詳しく説明しているL-乾燥保存法でも菌類 (カビ) の分生子 (胞子) を保存対象にしていること

 また,回答者は参考文献として宮治・西村・宇野先生のご高著を紹介されていますが,微生物の保存法全般に関する図書として根井 外喜男 (編) 微生物の保存法, 東大出版会も併せて紹介されるべきだったのではと思います。
 以上のコメント, よろしくご検討頂ければ幸いです。

追伸: 
 「質問箱」に寄せられた質問に対して,無料であれだけ詳細な回答を提供するというのは「臨床微生物迅速診断研究会」会員の社会奉仕以外のなにものでもないと思っております。「質問箱」を拝読するたびに,本当にありがたいと感謝しております。貴会ホームページにある「質問箱」は,微生物に関する仕事に携わっている人間にとって重要な情報源になっておりますので,「質問箱」を今後とも継続されるよう, 切にお願い申し上げます。


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