03/06/13
03/06/12
■ 10%食塩水に白い浮遊物 (細菌??? 真菌???)
【質問】
 初めまして。私は○×病院透析室に勤務する臨床工学技士兼臨床検査技師) です。先日, 薬局で作ってもらった10%NaCl製剤をポリ容器内で28℃の室温で保存していたところ, “白い浮遊物”が発生しました。2つの別々の施設で調べてもらった結果, A施設ではSphingomonas paucimobilis, B施設の結果では“アオカビ”でした。10%NaClという環境下で2つの微生物が共存できるものなのか。ひとつとするなら, なぜ, 異なった結果がでたのか教えてください。 

【回答】
 ご質問を以下の3点に分割して考えてみましょう。 

 (1) 分離されたSphingomonas paucimobilis と“アオカビ”は 10%NaCl 耐性をもつのか???
 (2) 検査施設Aと検査施設Bとで異なる成績が示された理由は???
 (3) 10%NaCl という環境下で2つの微生物が共存可能なのか??? 

 まずは (1) の質問ですが, Sphingomonasとアオカビ (Aspergillus またはPenicillium と解釈されます)が10%NaClで発育可能かどうかの直接的な検証については回答者も存じませんが, [ http://www.ai-nex.co.jp/Water_Activity.htm] に示されているように, 水分活性から発育 (増殖) の可否を見ると, 総じてカビの類は低水分圧に強いことが示されており, 従って「アオカビ」が検出される可能性があってもおかしくはないと思われます。また, Sphingomonas も同様に高浸透圧環境下で発育する可能性が充分に考えられると思います。 

次いで (2)の質問 の「なぜ, 異なった結果がでたのか」について考えて見ましょう。検査を進めるに際し, 保管中の溶液に出現した浮遊物を微生物検査の対象にした場合, それがどのような形態のものなのかを顕微鏡で確認することから始めるのが一般的でしょう。ご質問の事例においては, その時点でおそらくは「カビ」の菌糸を認め, それに応じた検査法を選択することになると思います。もちろん, 一般の細菌も平行して検出を試みるべきでしょうが, あくまでも目的は目に見える「白い浮遊物」ですので, そちらに主眼を置くことになるのではないでしょうか。なぜ2つの異なる検査機関に検査を依頼されたのかは文面からは判りませんが, その検査施設に検査の目的が的確に伝わっていたのでしょうか。検査によっては, 糸状菌を目的菌として指示しなかった場合, 糸状菌を検査しないことも考えられますので, 依頼をした検査施設にどのように検査を進めたのか確認されてはいかがでしょうか。カビでも, 細菌でも, 存在するものが検出されないのはおかしいと思われるかも知れませんが, 意外な落とし穴があるのも事実なのです。 

最後に (3) の質問の「10%NaClという環境下で, 2つの微生物が共存できるものなのか???」というご質問についてですが, ご質問の内容が判然としないところがあります。同時に複数のものが存在しうる環境というのは, 特に稀なこととは考えられませんが, いかがでしょうか。それが「10%NaClという環境下」であっても, そこに存在可能なものであって, 相互に抑制的に, または拮抗的に作用しあう特殊な組み合わせは別として, 同時に存在することは当然のことながらあり得ることです。
以上, 簡潔にお答え申し上げましたが, 質問者の求める回答とズレがあるようでしたらご指摘下さい。        

(信州大学・川上 由行)

【質問者からのお礼】
 10%NaClの件につきまして, ご丁寧な回答をありがとうございました。大変勉強になりました。私たちは高濃度の食塩水の中に微生物が存在できないと根拠のない思い込みをしておりました。研究をされている先生方がお聞きになると笑われるようなことだったのかもしれません。2つの施設で検査をしたのは, 病原菌になりうるものばかりを検査している施設 (当院の検査室) と環境菌を想定したものを専門に検査している施設に念のため依頼したからです。

 水があるところには微生物が繁殖することを胆に銘じ, 感染対策に取り組んでいきたいと思います。もっと, 臨床現場と研究者が密接にコミュニケーションして, 現場に生かせるようになることを願っています。


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