03/05/13
03/05/08
■ “接触感染”,“経皮感染”, 健康な皮膚からの感染???
【質問】
 はじめまして。あまり専門的な質問ではないのですが, 教えていただきたくてメールいたしました。私は元看護師で, 臨床を離れて15年になります。来年子供が中学を卒業するのを期に復帰したいと思い, 昨年から勉強し直しているところです。感染症について勉強していて, 著者によって分類がさまざまで (特に感染経路), 本を読めば読むほど解らなくなりました。

接触感染”について:
 (1) 性行為感染
 (2) 感染者に触れ, その手や衣服に病原体が付着し, その手で自分の顔や髪などを触ることにより粘膜や口から病原体が侵入する
 (3) 皮膚に肌荒れやささくれなど見えないような傷があり, その傷口から病原体が侵入する
と理解していました。ところが, (3) については“経皮感染”に分類されている本も多数あり, どちらが正しいのでしょうか???

 また, 別の本に「健康な皮膚面からも感染する」とあり, それも経皮感染に分類されています。健康な皮膚面からの感染ということがどういうことなのか理解できずに困っています。
よろしくお願いいたします。

【回答】
医療現場において「接触感染」という言葉を用いる場合, 現在では主に「感染経路」に関する分類のひとつとして理解している場合が多いと思われます。しかし, 広義では, 接触することによって起こる感染症を指すこともありますので, 質問者の解釈に間違いはありません。なお, 感染症にかぎらず, 分類という作業は, 一般に, 様々な観点から行われますので, 一義的な観点からのみでは理解しにくい場合もあると思います。

さて「感染経路」の分類に関しては, HICPAC (病院感染対策諮問委員会: 米国) による「病院における隔離予防策ガイドライン」の考え方が広く用いられています。このガイドラインでは感染経路を, 接触・飛沫・空気・一般媒介物 (食品や器具・装置など)・昆虫の5つに分類しており, これらの経路に応じた予防対策をとることにより病原体の伝播を防ぐことが述べられています。また, この中で特に重要で頻度の高い伝播様式として“接触感染”があげられており, 医療従事者の手指を介した伝播防止の必要性が強調されています。

ではご質問に戻りますが, 「経皮感染」とは, 皮膚を介しての感染様式を指しますが, 春になって田植えの季節を迎え, 農作業が始まる5月頃から, ドブネズミなどが尿中に排泄したレプトスピラに汚染した田んぼの水から, 皮膚を介しての感染事例が散見されるようになります。手指や足の皮膚からの感染ですが, 目に見えない程度の傷口からも感染が成立します。通常だと問題にならない程度の「ササクレ」を健康な皮膚と判断するか否かの問題に帰着しますが, これも“接触感染”の一種と考えていいかと思います。また, 医療現場においては, 注射針や医療器材による穿刺事例などの場合は, 先の分類では, 一般媒介物感染に含まれると思われますが, この場合にはもちろん, 正に健康な皮膚面からの感染としてご理解いただけると思います。さらには, 健康な皮膚面が媒介して患者から患者へと病原体を伝播させることも重要なことであることを知っておく必要があるでしょう。

(信州大学・川上 由行)
【質問者からのお礼】
 独学には限界があり, いつでも新たな疑問と格闘しております。私のような再履修者が通えるような看護学校や研修所があればいいのにとつくづく思います。ですが、こうして回答をいただけて一歩前進できました。大変嬉しく思っています。本当にありがとうございました。
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