03/07/14
■ 歯科領域での感染予防対策
【質問】
 病院に勤める歯科衛生士です。当院は, CDCのガイドラインに沿って感染予防対策を行っております。以下の3点についてお聞きします。

(1) イソジンなどの綿球つぼ, アルコール綿を毎日交換することの根拠について: 綿球つぼはディスポ製品を使用し, 毎日交換しています。アルコール綿はワンショットプラスで, 24時間で廃棄していますが, 今後1枚ずつのパックになる予定です。薬液を継ぎ足したり, 開封後24時間以上経過したアルコール綿を使用した場合, 細菌が増殖するという根拠はあるのでしょうか。

(2) クリティカル器具を滅菌する前に, 以前はグルタールアルデヒドなどに浸してから洗浄し, 滅菌していました。現在は, 一時消毒なしに流水で洗浄後, 滅菌するという方法に変更になっています。洗浄時は, 手袋・マスク・ディスポガウンを着用していますが, 洗浄中の針刺しなどで, 感染の危険はないでしょうか。

(3) 歯科におけるスタンダードプリコーションをどうしたらよいか, 試行錯誤しています。患者の口腔内に入れる器具で, 滅菌できないものもあります。また, 開業医レベルの人員で, コストのかからない感染予防対策を実行するにはどうしたらよいのでしょうか。

【回答】
(1) 結論から申し上げると,「薬液を継ぎ足したり, 開封後24時間以上経過したアルコール綿を使用した場合, 細菌が増殖する」という根拠は見つけきれません。もちろん, 「適切に使用されていなかったアルコール綿が汚染されたことによる病院感染が発生し,この場合, アルコールの揮発による濃度低下が指摘されています」という記載はあります。しかし,例えばワンショットプラスと同等と思われるヨシダ製薬の一体成型ポリチャック付パッケージ製品“エコ消エタ綿A”のパンフレットに,その製品と万能つぼを使用した場合のエタノール濃度を比較したデータがあり,その製品のエタノール濃度は低下しないものの, 万能つぼのそれは低下したとしていますが, 後者でもその値は7日後に85%でした。エタノール使用濃度としては60〜90w/w%が適当であるとされていますので, 万能つぼでもそう簡単にその濃度が低下することはないように思います。そのため, よほど“不適切に”使用しなければ, 細菌が増殖することはないのではと考えます。

(2) ご質問の趣旨がよくわからなかったのですが, 強いていえば, 次のことがいえると思います。針などの尖った器具は洗浄を行わずに廃棄する場合が多いと考えられますが, 洗浄を行わねばならない場合は洗浄中の針刺しによる感染の危険はあるでしょう。ただし, 針刺しによる感染はそれに付着している血液の量に関連 (比例) するようですから, 洗浄時は血液の濃度が薄まっていると考えられるため, 刺した場合に体内に入る血液量は極端に少ないと予想しています。

(3) コストのかからない感染予防対策を実行するにはどうしたらよいか, という問題は, 国立大学病院において仕事をしている私たちも含め, 皆悩んでいると思います。もちろん時には, うまくいっているなと思う事例もあります。下に紹介する本の目的は“資源が限られている状況下で, 院内感染防止・管理を行うための枠組みを提供する”ことにあるそうです。私自身, 全部を読みこなしているわけではないので, 有用であるかもしれないとしかいえませんが。

[参考文献]
“限られた資源でできる感染防止”パトリシアリンチ著, 藤井昭訳, 日本看護協会出版界. ISBN: 4818008524 

(琉球大学・久田 友治)

【質問者からのお礼】
 お忙しい中, ありがとうございました。職場の感染コントロール委員として, スタッフに還元していきたいと思います。


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